平成11年5月14日
GIS推進活用セミナー講演

テーマ:地方自治体における失敗しない・させないGIS導入

柴崎 亮介(東京大学・空間情報科学研究センター教授)

 私がこの時間にお話したいことの一つは、まずGISを使った場合に、GISの強いところ、弱いところがいろいろあるわけですが、基本的にGISはこの辺が強いのでそれを旨く活かせるようなものを探したり、やり方を考えることが重要であるということです。それを旨く活かすやり方は、GISというのは一種のデータベースです。あるいはデータベースの中でも地図のデータを使うわけですから、できれば共通のベースになる地図があって、その上で皆がデータを使うということが良いわけです。つまり非常に慌てて、個別の業務にそれぞれ全く独立に話をしていくのではなく、ある程度コーディネートして計画を立ててやった方が良いのではないかということです。
 GISというのはデジタルの地図をベースに使っていますから、紙の地図とは違います。この紙の地図と違うということは、今まで割と抽象的な意味でしか使われていなかったのですが、国際標準化の作業の中にまで、縮尺という言葉が完全に消えるような変化が出てきました。データのクオリティの話をする時に、2,500分の1はどうだとかという話は全く出てきません。それは何故そうしているかと言うと、縮尺だけでは語れないユーザーのニーズがあるわけで、もっと自由にユーザーのニーズを記述できるようにしましょうというようなフレームを用意しているのです。それをこれから旨く使って行く必要があります。というのは、縮尺はもう使わないと言われると、例えば都市計画は2,500というように考えていた実務家の方々にとっては、かなり革命的であるような気がするわけです。ですからそれを今後いかに旨く活かしていくかということが、共通の地図をベースに持って、皆それぞれある程度データが共有できるように進んで行きましょうという計画創りにも非常に大きなインパクトが出て来るようになります。

GISのポテンシャル(1)

 前置きが長くなりましたが、まずGISはどのようなところに良く使われるのか、強みはどの辺にありそうかといったところからお話していきたいと思います。世の中には役所も含めていろいろなデータがあります。警察に行けば交通事故の情報があるし、水道や道路管理に行けば道路が陥没したことがあるかないかという情報があります。クレジットカードで物を買うと買った記録が残りますし、ビデオを借りると会員登録してカードで管理していますから全部データが残っています。そういう意味でデータはたくさんあります。次の段階というのは、データがたくさんある中で、例えば企業などが競争していくとすると、そのデータをいかに旨く組み合わせて意味のある情報を見つけていくかということになります。また、「安くておいしい店がここにあるよ」というようなタウン情報誌に出てくるようなデータを共通の地図に貼り付け、交通事故のデータも共通の地図に貼り付いているというようにしておけば、後でコンピュータで検索して行った時に、入り口がどこに付いているかによって、かなり交通事故の起き方が違うといったことがわかる可能性があるわけです。マーケティングでいうと、どこに住んでいる人はどういったものを借りる傾向が強いのかということを載せておけば、どこにビデオのフランチャイズを起こせば良いかということがわかるわけです。この例としてはマクドナルドが有名ですが、だいたいファーストフードのお店はこういう分析をやります。というわけで、データは結構、皆共通に持っているのですが、後はそのデータをいかに旨く組み合わせて付加価値のある情報をどう作って行くかということが問題になってきます。そのために一番簡単な方法は、ある程度ベースになる、貼り付ける土台があるということが重要で、これがバラバラだと後で合わせる時に苦労しなければならないということになります。

GISのポテンシャル(2)

 もう一つのGISのポテンシャルは、要するに情報をわかりやすく視覚的に表現するということです。例えば地形のデータの上に航空写真を重ねて見てみると、誰でも見たら直ぐわかるような、わかりやすい画面になっているので、データがたくさんある時に、いかに旨く相手にその繋がりを理解させるかという意味で、非常に使いやすいビジュアライゼーションの方向になるのではないかと思います。

個別の分野での可能性

 今まで皆さんご存知のように、個別の分野ではかなり使われています。例えば、多量に地図や図面があったり、しょっちゅう更新されるので、それを整合性のとれた形で縮小しようというのと、素早く検索しようというのがあって、電力やガスのような施設管理や警察・消防などの緊急対応にも使われています。カーナビゲーションは、わかりやすい情報の検索・表示だけではなくて、自分が今どこにいるのかというポジショニングがはっきりしていることがキーポイントになるわけですが、こういったものがあります。また、先程申し上げたように、典型的に情報を総合化・分析していくという出店計画支援としての使われ方があります。

社会・経済的にも大きなインパクト

 こうしたことを考えて見ると、データとデータを付き合わせて付加価値のある情報を作るという話は、恐らくいろいろな産業に関係があるだろうというわけで、新しいサービス・新しい産業につながるのではないかという期待は当然あります。例えば、ISOで今GISの標準化の検討をしていますが、そこに出席するような人達は各国それぞれいわゆる国土地理院にあたるような地図のデータを管理していく人達も勿論いますが、10人来ているとすると8人から9人は、殆どソフトウエア関係の方です。アメリカではオラクルがこうした分野に非常に力を入れていますし、マイクロソフトからも勿論来ています。こういう構成を見ていると、将来こういう情報の整備や管理の仕方、あるいは統合の仕方に対する期待の大きさがわかると思います。これをいかに上手く利用させるかというためには、まずは貼り付ける土台がないとGISがデータを上手く総合化するというメカニズムが動かないわけですから、それをどのように行うかということが重要になって行くわけです。

今どんな問題点??

 つまり個別の利用者と企業をいかに繋げるかということが問題になります。逆に、問題というのは個別の利用者に関しては、データを作るのにかなりお金がかかるということと、買ってこようとしても、そんなにたくさんの種類のデータが選り取りみどりあるわけではないということです。トップダウン式に言えば、東京のような所は地図のデータが5種類も6種類もたくさんあります。官庁関係や東京都でも上水・下水、都市計画、東京ガスなど、要するにニーズのあるマーケットが高い所はどんどん突出するのですが、やはり情報というのはマーケットがあって成長できる所だけが作れば良いという話ではないし、地図というのは例えば福祉だとか安全だとかということに関係ありますから、ある程度全国的に展開しようとすると、今のようなやり方では旨くいかないというわけです。また、ベースマップがあまり充分ではないということで、今の段階では共通利用や流通が進まない。極端なことを言うと、情報分野の競争力に影響を与える可能性もあるのではないかと思います。今、割合、社会全体の話をさせて頂いているのは、自分のやり方を今後どうやっていくかを考える上で、やはり国はどんな問題を抱えていて、何を考えているのかということがある程度わからなければ、なかなか動きが取り難いだろうということで、こういう全体の話から進めさせて頂きました。

解決法____トップダウン?

 今のような問題に対して、勿論手をこまねいているわけではありませんで、アメリカにしろ、いろいろなことを考えています。一番初めに動き始めたのは「国土空間データ基盤」の整備です。これは一種のベースマップのようなものが核になっていて、そういう意味では非常に即効的でわかりやすいわけです。ただ、創るのに時間もかかるし、そんなものを創ってどんな効果があるのかという議論を大蔵省としなければいけないわけですが、そういうところに関しては充分な材料が揃っているとは言えませんし、創った後の維持更新をどうするのかという問題も当然起こってきます。あるいは今の段階でこういうものが要るというやり方を決めた時に、これから利用者の需要が随分変わってくると思いますから、それに対してどのくらい応じられるかという問題があります。いろいろ心配ではあるのですが、案ずるよりは生むがやすしということもあります。もう一つやらなけらばいけないことは、ベースの上に皆がデータを貼り付けたとしても、どこにどんな情報があるのかということがわからなければ、全く利用できませんから、メタデータを創りましょうということです。メタデータというのはデータのラベルですけれども、そういったデータのラベルやデータのカタログ情報を創って流通させて、共通で利用できるようにしましょうと。これは勝手に創るのではなく、ある程度統一して検索がしやすいような形を創って行く必要があるということも考えられますから、この辺もトップダウン式にやってもらわなくてはいけません。そのベースになるのがいわゆる標準化ということになります。

国土空間データ基盤

 今の話を一つずつ簡単にご説明しますと、国土空間データ基盤というのは「ベースになるベースマップがありますよ」というわけです。ところがデータを貼り付ける時は、必ずしも地図を見て人間が押しピンで押すように貼り付けるわけではなくて、例えば住居表示のデータから直接自動的に地図に落とすとか、いろいろなデータの落とし方があります。そういう意味で、データを貼り付けやすくするようにしなければいけません。ですから基図を要するというのは、その方法に則ってその上に目標物を貼り付けるという事です。更に住所や地番、郵便番号など住居表示をベースにする。そして、それによってデータがベースマップに貼り付けられた時に、いったいどこにどんなデータがあるのか流通促進のための仕掛けをしなければならない。特に重要なのは、品質のラベルや交換ルールなどです。こんなデータがあるという宣伝自身は売りたいと思えば必ずやるわけですが、あまりやりたくないのは、このデータにはどのくらいエラーがあるのかといったことです。それに対して正直に話をするというのは易しいことではありません。逆に言うと、こういう広告についてきちんと吟味しなければならないといったことを決める必要があるのかも知れません。

国全体での基盤データの共有化

 これは国レベルで予算を取って決めてしまえば済むことでして、比較的順調に進みつつある分野だろうという言い方ができます。

標準化

 標準化というのは、なんとなくソフトウエアを書く人が解っていれば良いと思って、利用者はあまり関係ないと思われるかも知れませんが、それはそうではなくて、利用者の方にもある程度作業をしてデータ交換をしないといけないという話になっています。それは何故かと言うと、標準化というのは何か特定のフォーマットが出来て、それに添って全部データを入れて下さいというようなものではなくて、言葉の翻訳に近い考え方を持っています。つまり、「エスペラントでやりましょう、英語でやりましょう」と世の中に言っても、誰も耳を貸さないのと一緒で、既にGISについてもいろいろなソフトが走っていますし、データもたくさんあるわけです。ですから、それを止めて「何とか形式にしましょう」と言うのは、普通通らないはずなのです。そうなると、言葉と言葉の間を繋ぐ変換ルールをどうやって作るか、ということになります。その時、もちろん変換ルールにもいろいろなレベルがあります。例えば我々がアメリカへ電話をかけたとします。こちらから「もしもし」と言うと、「もしもし」という音声がアメリカの受話器から正しく聞こえてくるというのは、まず一番最低レベルの標準化でして、こちらから送った信号が正しく向こうで再生されるというものです。これは逆に言うと、こちらから送った数字例が向こうに届くと、正しく認識できるというか出てくるというものです。でも、それではデータの交換にはなりません。なぜかと言うと、こちらで意味している言葉と向こうで意味している言葉が違うことがあるからです。日本語で「もしもし」と言って向こうで「もしもし」と聞こえても、受けたアメリカ人が日本語がわからなければ意味がないのです。間で「もしもし」と言ったのを「ハロー」と変換してくれるものを作らないといけない。データの変換というのは単に聞こえるだけではなくて、意味が伝わらなければいけないわけですから、そういった部分が必要になってきます。そうなると単語の場合、「もしもし」=「ハロー」であるという辞書がないといけないという話になってきます。辞書を作るのは誰かというと、「もしもし」という言葉を使っている人達が作るべきでありまして、NTTが作るものではないしAT&Tが作るものでもないとなると、ユーザーが作らなくてはならない。標準化というのは作った辞書が読めないと困りますから、「辞書はこういうふうに作って、こんな形式にして下さい。こんな広告を網羅して下さい。」そして、「必ず網羅してもらわなければ困る広告と、頑張って入れてもらえるのでしたら助かります」という広告に分けられます。いずれにしましても、標準化をすることで、自動翻訳みたいなものが実現できないだろうかというので、やっていることになります。

国際標準化作業の現状

 このような標準化は、取り敢えず今年から来年にかけて、主なものは大体少なくとも技術的には完了すると思います。今やっているのはISOと呼ばれる国際標準化機関で、これも地理情報全般の標準化をやっている部隊と、ITFと呼ばれるような交通システムの話の一部としてナビゲーションのデータ標準化をやっている部分に分かれています。あるいはアメリカの民間の会社では大学も入っていますが、OGC(Open GIS Consortium)と呼ばれるようなところが、主にソフトウエアのインターフェイスといった部分にどちらかというと焦点を当てて、すぐにインプリメントして使えるようなものを作ろうとしています。ヨーロッパではヨーロッパ独自に標準化をしていこうとしています。そういう意味で、今年から来年にかけて大体方向が決まってくるとなると、これに対応したソフトウエアが当然出てきますし、それを旨く使おうとすると、やはりきちんと辞書を作ろうとかメタデータを作らなければという話になってきます。

解決法___トップダウン?

 今、ずっとトップダウンの話をしてきたわけですが、トップダウンだけで話が旨く行くほど世の中甘くないわけでして、当然ボトムアップ式に実際データを使っている人達に、いかにハッピーにデータを使ってもらうか、いかにそれで効果を上げてもらうかというようなことをやって行く。こちらが逆にある意味では本来の姿になるわけですが。そういったものが必要になります。

解決法___ボトムアップ?

 そうやって見ていくと、県レベルでは少し中途半端でして、実際に自分達の所でデータを取っている業務はそれほど多くないわけで、そうなると市町村レベルでいかにサポートするかということが非常に重要になってきます。しかも市町村レベルで作られるデータというのは、非常に大きな縮尺のデータですから、例えば住宅地図で案内図の情報あるいはナビゲーションの情報という意味で、民間レベルで民間のサービスを支えるものとして使うという意味のニーズが凄くあるわけです。ですから最終的な方向としては、市町村から電力、通信、ケーブルテレビのようなライフライン的な企業から住民サービス密着型の会社まで含めて、地域でこうしたデータを共有していくといったことが重要になってくるという言い方ができると思います。

結局…

 トップダウンの方は割合進んで来ていて、ボトムアップの方からどんなニーズが出てくるかというのを、ある程度吸い上げつつはありますけれども、まだ十分ではないかも知れませんが待っている状況にあります。あとはGISの有効利用をいかに推進して行くかという話になって行きます。

市町村でのGISの活用方法

 市町村でのGISの活用というのは、GISを活用すること自身に意味があるということは、もちろん反対はなくて、それによって市町村レベルでいかにメリットが生じるかということが問題であると思います。ですからまず、いかに手を抜いて楽に作るか(いかに効率的に整備・更新するか)、できたものをいかに旨く効果的に使うか。「効果的に」というのは、これを使うことで楽になる、あるいは住民サービスのレベルがうんと上がるという話になります。「効率的に」というのは、一番単純なのは、皆それぞれデータを作ったり買ったりするのを止めて、できるだけ共有化しましょうという話に当然なります。いかに効果的にという話になると、まずは今一番困っていることに対してアプローチしてあげなくてはいけないということになるでしょうし、使っている内に使い方を覚えてくると、いろんなやり方ができるようになってきて、そうなると今使っているソフトではちょっと物足りない、あるいはこんなデータがもっと欲しいということになるわけです。ですから、だんだん拡大するニーズに対して利用方法も柔軟に変更できるようになる、そういう仕掛けを考えておいた方が良いでしょう。利用者の数というのは多ければ多いほど、基本的には、無理に使わせている利用者でない限りは効果が大きいというわけですから、いかに利用者の輪を広げるかということも大事です。

具体的なアプローチ

 ここまでは非常に抽象的ですが、具体的なアプローチとしては、このようなことが考えられるのではないかと思います。勿論これは唯一の解決策ではありません。恐らく実情に応じていろいろな方法があるだろうと思います。ただ、市町村が良くやっていること、あるいは直面しているいろいろな問題や環境が違うので、皆それぞれ相違工夫してやらなくてはいけないということがあります。しかし、あまりそれを言い続けてしまうと、一つずつ全部作っていかなくてはいけないという話になってしまいます。ただ、恐らく或る共通部分というのはあるわけですから、或る共通の戦略というのもあるだろうというわけで、ここで上げたのは、そういう意味の共通の戦略です。まずは、基本的にデータが重複しないほうが良いに決まっていますから、ベースになるデータを作ろう。本当にそんなのが出来るのという話は後でしたいと思います。この共通のものというのは、あまり大きくなってしまうと、また皆でやるのは大変なので、恐らく必要最小限のものを作って、それ以上使いたいものは使う人や部局が、それぞれ独自のお金で独自のデータを加えれば良いではないかという話になるでしょうし、もう一つは共通にやったとしても、そこそこの投資をしなくてはいけませんから、結構なお金がかかって「入れたのにあまり役に立たないではないか」とか「講習会ばかりが増えて大変だ」とか言われると困るので、日常的に使うことからやりましょうということになって行くはずだと思います。そういう目で見て行くと、いろいろなデータを入れた非常に高度な計画支援システムといった類のものは、あまり長生きしませんで、結局良く使われているのは、例えば割と大きな町の都市計画決定に関する情報の問い合わせが凄く多くて大変なので、問い合わせがあって場所を特定するという時に、パッと地図を見て、言ってもらった住所を入れるとその部分の地図が表示されるといったようにして行くと良いのではないか。それはアプリケーションの技術としては極めて単純で、技術者から見ると「そんなんで良いの」という話になるわけですが、例えばそんなことからスタートして行っても良いのではないかという話です。こういう基本的な基図のデータを共同でやりましょうということに対して、今の段階ではどれだけ定着しているのかわかりませんが、「統合型GIS」という言葉が最近、割合使われるようになりつつあるのではないかなと思います。

共通基図による統合型GIS

 今の統合型GISの話というのは、繰り返しになりますが幾つかメリットがあるわけです。重複整備が少なくなるのではないかということと、共通基図を通じたデータを重ね合わせるということが容易にできるのではないか。これは別に今直ぐ重ね合わさなくても良いわけで、例えば都市計画の閲覧や問い合わせ対応をやる時に、必ずしも固定資産の情報を統合化する必要はないし、建築確認などの情報をリアルタイムで持ってくる必要もないわけですが、ひょっとすると将来もっと高度な利用をしなければならない、あるいは災害等でやらなければならない立場に追い込まれた時に、それが簡単にやれるだろうということを考えて行くと、やはり今の段階でこういう共通基図をベースにした図面をキチンと作っておく。少なくともGISを使う可能性のある部局が、そういった点で一応合意をして、こういう情報をベースに考える。例えば取り敢えず、ある借りてきたデータを使うかも知れないけれども、それは今非常に大変な問い合わせ対応に対処しようという緊急避難的な使い道で、共通基図が出たら、そちらを塗り替えてちゃんと皆でメンテナンスして行きますという合意を取ることが重要だと思います。いきなりスタートして、これが無いと一歩も前へ進んでは行けないというわけではないだろうと思います。これをベースにして行くと、データの重ね合わせが基本的に自動化されますから、自動化されるということは、データを誰かが入れていると、知らず知らずのうちに他所でも使うことが可能になるというわけで、多くの新鮮なデータをもっと安く使うことが少なくとも将来できる。その可能性がちゃんと担保されるということになるのではないかということです。
 もう一つ制約というのは、そういう合意を得なくてはいけないということで、当然、時間と根回しをしなくてはいけないということになります。ただ、今の段階で、今年の8月からGISが動かないと、業務が成り立たないという業務があるとは思えないので、これに関してはあまり慌てずにじっくり考えて皆の合意を得た方が良いのではないかと思います。あとは、ベースマップの維持管理をどうするかということで、一体誰が何を維持するのか、どんな情報を集めてくるのか、入力するのは誰かということ。あるいは、ある所は一ヶ月に一回データが欲しいというけれども、別の所では台帳の書き換えは一年に一回しかやらないということで、それらを全部合わせて行こうとすると、協調作業をしなくてはいけないだろうということになります。

段階的な進め方

 先ほどから言っていますが、GISをガンガン使って本当のベテランで、この方の言うことを聞いていればバッチリOKということは残念ながらありませんので、取り敢えず効果が直ぐ日常的に見えて、「あれがあったお陰で凄く楽になりました」というものをまず作るということと、データがすでにあるのかどうかといったところから始めること。後は共通基図の話に合意が得られているとすれば、そういったものを目指して、それのベースになるようなところから先に先行的にやっておくということを提案するということが有効なやり方だと思います。
 今のような話で必ず議論の的になるのは、「そういうベースになるようなデータが本当にできるのかどうか」ということです。建築屋さんでは、10センチ狂っただけで使わないということをおっしゃる方もいらっしゃるし、固定資産の課税のための現況調査でも、間口の長さを計る時にプラスマイナス1メートルあると、それはもう使えないという言い方をされる可能性もある。では、「現在どのようしてやっているの」と聞きたいわけですが、そのように皆いろいろな所で要望があるわけです。それを足して2で割るとか3で割るというようにすれば良いのかというと、それをやると満足する人も出てくるし、不満足な人も出てきて、不満足な人は割らないわけですから、必ずうまく行かなくなるというわけです。ですから、そこに行く前に、まず地図といったら何が必要なのかということをきちんと見直す必要がある。ここで国際標準の中で縮尺という言葉が出てきませんよと言った意味がだんだん生きて来ます。と言うのは500分の1が欲しいという人と、2,500分の1が欲しいという人で、500対2,500で闘うと、うんとお金があれば全部500で行きましょうということになるし、2,500で行きましょうとなると500の人が「貰っておくけど使わないよ」ということになってしまうというわけです。

基図データの構築方法

 そこで、縮尺を超えて「本当にあなたは何が必要なのですか」という話を見て行こうとすると、まずは従来の紙地図の仕様イコール縮尺ですが、あまりこういうことに拘泥しないようにしましょうといういことです。なぜ拘泥しなくて良いかというと、例えば家屋や建物に関してプラスマイナス30センチや50センチの位置の精度、(位置の精度というのは形の精度や部屋の広さを測るという意味ではなくて、その家屋が本当にどこにあるかという緯度経度的な意味で)プラスマイナス30センチでないと困るという仕事をしている所があるだろうか、恐らく無いはずです。例えば固定資産などで建物の評価をする時に、細かいことを取るかもしれませんが、あれは間取りが分かれば良いのであって、その間取りなり建物なりが一体どこに置いてあるかというのは、恐らくどの図面の上に置いてあるかということがわかれば良いはずです。そうやって考えて行くと、位置精度は家屋や建物に関しては、基本的にそんなに高くなくて良いのではないか。もう一つ厄介なのは、筆界や地番のデータです。これはちゃんと国土調査が終わっている所であれば、それを使うということになるわけですが、ところが実際によく使われているのは、いわゆる絵地図のような公図を使っています。これが唯一法的根拠があるので、これをベースにして課税などの話をしないと駄目だというのが固定資産でよく言われるところです。ですから、そういう時には一体どうするか。絵地図をベースマップの上に無理にはめ込むということをしても、それは法的根拠が全くない修正地番図になる。
 そこで例えば一つのアイデアは、修正地番図でも少なくとも物理的に存在する建物や道路などの位置物の対応関係というのは、そこそこ使える。ですからこれは逆に言うと索引図として使えるのではないか。そして、この索引図をクリックすると、その下から法的根拠のしっかりした公図が出てくるというようにすれば良いのではないか。そのようにして、かなり要求水準を敢えて下げてしまうというようにすると、うんと楽になるのではないでしょうか。それから、等高線などもデータ量から見ると結構大変で、取る方もなかなか苦労するのですが、ところが等高線というのはあまり使われていないのです。例えば普通の地図に書いてある等高線を見て、工事の積算をするということはないわけで、必ず    現地測量します。見るのであれば、むしろ道路路面高のようなものが、きちんとマンホールのことも押さえてあるという方が下水の方でも使えるし、あるいは地形の具合を見るためにも実際は道路の高さがわかっていた方が見やすいわけです。等高線だと市街地に入るとブツブツ切れていて、どこに何が繋がっているのか全然わからないということになります。
 もう一つ住宅地図というのは、これは目標物の情報が全部書いてありますから、問い合わせがあった時や自分が現地に行く時に物凄く使います。「これはフォーマルな地図ではない」。つまり今まで公共測量で出て来た結果ではないと言って、(逆にそれだからこそ気楽に使われていたのかも知れませんが)こういったものも少なくとも目標物のデータに関しては、ベースマップの上に貼り付けて行くというようなやり方をしても良いのではないかというわけです。そうやって考えていくと、建物はいいかげんに作って良い。道路は施設管理等のベースラインになりますから正確に作らなければならない。しかし正確なのは道路で、極端に言えば建物・家屋はそこに在るとわかれば良いということですし、筆界などは修正地番図を作った方が良いというのは、今までと変わらないのですが、例えば等高線などは要らないというようにしてしまうと、少なくともデータ量は減りますし、費用も結構安くなるかも知れない。特に更新まで考えると、データ量と更新はかなりリンクしていますから、随分安くなるに違いないと私などは思っています。
 道路境界に関しては、どのくらいの単位で何が埋まっているかという情報がありますから、これは数十センチの位置精度が必要になります。

土地情報基盤としての利用

 今の話のイメージとしては、これは土地の話をベースに考えていますけれど、このような(図)のイメージになるのではないかと思います。ですから、道路はきちんとしていくけれども、建物はそこにあるかどうかという話で、間取りなどは建物にくっつける    という話になるでしょう。土地家屋調査士などが測ったりする面積の積を使う方は地積図というのがありますが、これも絶対的な位置の精度というのは全然ないわけです。ただ、相対的な形はきちんとしてありますから、こういったものでも割り込んだ公図のところから引っ張って来れるように、リンクを張って整備しておけば、いつの日かここに国土調査が来る時も、例えば事前の調査のデータとして使うことができるのではないかという話になるでしょう。あとは、割り込んだところは、こういう公図に対してリンクを張っておけば、法的な話が重要になると、これを出せば良いし、現地に行って案内図の変わりに使おうという時には、割り込み図の方が道路に対応してありますからわかりやすいわけです。

これからの国際標準におけるデータ品質の表現方法

 今までの基図のデータの話で、キーになっていくのは、データの品質、データに何を要求するか、どうやって表現していくかというところです。ここで、国際標準の話を紹介しますと、「完全性・論理整合性・位置精度・属性精度・時間精度」の項目に関して、こういうデータが欲しいということを表現しましょうということになっています。完全性というのは、もれなくデータが取れているか、あるいは古いデータを消し忘れていないかということです。例えば建物に関してはどのくらいの要求を出すか。課税する問題があると、当然完全性に対しては非常に高い要求を出します。100%というと作る方が大変になるので、今ある精度より下回らないとか、今ある精度と同等以上という格好で発注する。ここで大体地物があるかないかという精度がわかります。次に論理整合性というのがあります。これは例えばポリゴンは閉じているかといったことです。建物は道路の上にはみ出さないとすれば、それが守られているかどうかということがここでチェックされます。位置の精度は、先程のプラスマイナス1メートルという話です。属性精度というのは、建物についている持ち主の名前や居住者の名前がどのくらい合っているかどうかということです。時間精度というのは、1月1日のデータが曇っていて取れなかったので1月3日になりましたという場合、それが本当に品質として管理する必要があるかどうかは別として、管理されます。

公共測量作業規定

 そのようにしてやって行くと、今までの縮尺というのは、かなり楽だったのです。縮尺というのは、そもそも本来どのくらいの大きさで絵を書くかという話だったわけです。ですから、まず何を書くか決まってしまう。つまり2,500分の1の地図を作る場合に、家一件一件というのは虫眼鏡で見ても見えないし、書くこともできないというケースもあるので、建物は書かずに所在地として表示しましょうということになります。ですから、何を書くか、データとして何を取るかということまで決めてしまっていたのです。次に、どう描くかという問題があります。マンホールは丸ですから、本当は○と書いたほうが正確なのですが、2,500分の1で書くとしたら恐らく点でしか入らないというわけです。ですから、具体的に形をどう表現するか決めてしまう。
 あと、位置精度というのは、線の太さもありますし、0、2とか0、3ミリでしか書けないし、印刷もできないわけですから、位置精度も低くなってしまう。そういう意味で、縮尺というのは非常に総合的な仕様で、これを一言で言えば、他のことは何も言わなくて済むという便利な仕様であるわけですが、この便利さが災いして縮尺しか知らないということになると、自分が本当に欲しい情報がどんな情報かということを言うことができなくなってしまうので、GIS等のデジタルの世界の時には非常に困ったことになるということから、国際標準のISOが出てきているわけです。
 国際標準の一番出だしの時に、混乱や激しい議論があったのですが、「品質とは何か」「現地との差だ」ということが問題になりました。現地と比べてどうかという話は、例えば古い地図を数値化しましょうといった時に、業者がいくら頑張って数値化したとしても、「現地と違うじゃないの」と言われると困ってしまうということがありますし、或いは航空写真と現地というのは撮影時期によっては違ってくるというのもあります。それとの差を一体どうするのか。もちろん仕様書に、写真を撮影した後に建てた建物については、ちゃんと地上測量して入れなさいと書いてあれば、そうしなければならないし、もし、そうでなかったら、一生懸命作業した結果、現地と違うじゃないかとリジェクトされてしまう。それでは困るというわけで、結局、今はプロダクト・スペシフィケーションというのがあって、これはデータの作成仕様書です。作成仕様書というのは、「こういうデータを取ることが理想である」ということが書いているわけです。「こういうデータが欲しい」というのを明確にしているはずである。逆に、そうでないと困るわけですが、そういう理想的なデータソフトと、実際に導入されたデータソフトとの間を見ましょうと。ですから、古い紙地図を渡して、「これを数値化してくれ」と言った場合には、上がってきた数値化データが古い紙地図と寸分違わなければ100%の信頼品質というわけでして、それが違っていたら駄目だということになります。
 ですから逆に言えば、ここで問題になるのは、仕様書をどれだけ正確に書けるかということです。この辺のところは、国際標準化の話が、利用者の人達にインパクトを与えるというところの一つの大きなポイントなろうかと思います。ただ、これはいたずらに仕事が増えるということではなくて、こうしてちゃんと仕様を書くことができれば、例えば今までよりもっと安くて、より利用者のニーズにマッチしたデータを使うことができるようになるという言い方もできるわけです。ですから、これは十分投資をするに見合うものかどうか、少なくとも標準の原案を作っている人間としては、そういうふうに言いたいと思います。ただ、最初の文書から全部自分で作らなければならないかというのは、また別の問題で、例えば都市計画基礎調査の一貫として発注すれば、その標準仕様書があって、その中にはISO登録に準拠したものが書いてあって、市の特性に応じて多少数字が上下すれば良いというように恐らくなると思います。それは今後の課題として、今後トップダウン的にやって行かなくてはならないことになると思います。
 固定資産用のデータのケースも、先程の完全性や論理性の話をすると、完全性については、例えば課税対象の建物全部網羅する。これも、100%絶対に合っていなくてはならないと保障するのが大変です。それはコスト的に非常に高くつくので、本当は普通の工業製品がそうであるように、工業製品も100%完全ということはあり得ません。必ず保障期間があって、その間に不良品が出たら交換するというようにします。データの方も、「もし誤りが見つかったら、そこを全部新しくします」。あるいは、「その区画については、もう一回計りに行きます」というか、あるいは現在、実際はどれ程の誤差があるのか調べて、それをベースにして具体的な数値を出していくのか。あるいは公式には現状を下回らないという言い方をして入れるか。その辺のところは、議論する必要があるのではないかと思います。論理整合性ということになると、建物は敷地(筆)からはみ出ないということになります。位置精度というのは、2メートルとか3メートルを限度にしましょうということにして、形は現地で建物を確認できるように、現状の忠実性みたいなものは確保しましょうといった話になって来ます。このようにして行くと、かなりニーズに応じたデータ表現が可能になってきて、結果的にはベースマップを作ることができるという話になります。
 もう一つは、これまで拠り所にして来た公共測量の作業規定というのも、だんだん変わって行くでしょうし、変わりつつある思いますが、これは昔、誰がやっても測量作業規定に準ずれば、かなりきちんとしたものが作れるということを目標にして作られたものだと思います。今は、要求される製品が多様で、位置精度がどうだ、完全性がどうだという話になって来ると、ある作業規定に乗っ取ってやれば良いということにはならない。そういう意味では、恐らく今後はニーズに合わせて、必要な品質要件を確実に定義できるようなガイドラインを作ってあげる、あるいは、都市計画の標準仕様書の叩き台のようなものがあって、それにはインターナショナルスタンダードに乗っ取ったものになっているというようになるという話かもしれません。後は、そうやって書いてある作業行程にしているとすれば、成果品が、それをどれくらい満足しているか必ずチェックする方法をきちんと準備しなければならないということになります。恐らく、この辺のところは、ISOの9000シリーズとの整合性が出てくるだろうと思います。
 それから、都市計画基本図の仕様というのは、今の段階では建設省の都市局が管轄し、決めているということになっています。法律にも線は何分の1以上の縮尺という規定になっています。しかし、それはインターナショナルスタンダードに合わない。そういう意味で、これは変わらなくてはいけないだろうと思います。

基図導入後のデータの維持更新

 ベースマップを使って、データを皆で使うということになって来ると、今までは写真を取って一括で全部入れ替えるという更新の仕方をしていたのが、だんだん部分的に逐次更新をして、時々オーバホールのために航空写真で測量したものと一括で入れ替える、あるいは比べるということになって行くだろうと思います。そうなって来ると、民間の企業の方も、そういった仕事を効率的にやるための生産ラインを持たなくてはならない。今までは恐らく、地上測量と航空写真測量の二本立てで、それを如何に迅速に安くやって行くかというような生産ラインの組み方をしていただろうと思いますが、それを見直す必要がある。同時に、品質管理に関しては、市町村から、より厳しい、いろいろな要求が出てくるはずですから、それに対して「うちは、このように品質管理をしていますよ」と言えるバックデータを揃えておくか、システマチックな検索をするかというようなところが問題になって来るだろうと思います。

自治体の枠を超えたデータの共同利用

 ここから先は、将来の話です。希望的観測と言って良いかも知れませんけれども、民間レベルでデータ整備が急速に進みつつあるという話で、今の段階では、まだまだ自治体から都市計画基本図を民間が安くデジタル化して、というような割と一方的な関係になっているのですが、これから、もっとビジネスを大きくして行こう、もっとサービスをちゃんとして行こうとすると、もっとリアルタイムで更新して行かなくてはいけないので、そうなってくると、自治体と民間がいかにパートナーシップを旨く取って行くかということが重要になって来るだろうと思います。自治体には、元になるデータはあるけれども、それをきちんと数値化して、GISデータベースの更新というところまで持ってくるのは結構大変なので、それを誰かやってくれないかということになるし、勿論民間にも有益なデータがあります。例えば、ガス・電力などの施設データ。これは自治体にとっても、道路管理上非常に有益なので、こうしたものがあると良いですし、こういうものがあると、例えば道路の専用使用料の見直しのようなことが出てきて、ひょっとするとデータの更新      のようなこともある。そのようにすると、少なくともお互いに相手の持っているデータは入れなくて良いということになるでしょう。

まとめ

 要するにGISというのは、場所や位置を媒体にして、データをくっつけて、それで旨くデータが使える環境を提供するということがベースにあります。まず、ベースを作るという話を議論して、その計画性がもっと高まれば、どんなパッケージがその上を走ろうがかまわないわけですが、いろいろなアプリケーションが動いた挙句の果てに、皆バラバラ同じようなデータを、最終的に手を変え品を変え入れなくてはいけないという話になってくると、何のためにやっているのかわからなくなって来て、単なるOA化ということになってしまうので、恐らく出だしで、きちんとした導入の経緯と言いましょうか、いわゆるデータインフラの整備計画のようなものを作る必要があるだろうと思います。後は、そういったものを技術的にサポートして行く時に、国際標準の、恐らく一番インパクトのあるのが品質の話だとか、あるいはメタデータの話だと思いますが、そういったところをフォローしていくことと、民間の方ではベースマップというものが割と使われて来て、その上で逐次更新的なことが始まった時に、一体どんな技術的な貢献ができるのかというのが今後の問題になって来るだろうと思います。これはネットワーク上で分担したデータベースの間で、どうやって性能をチェックするかという話からスタートして、現場で如何に簡単にデータを持って来るかということも入って来るだろうと思います。