市町村合併・広域連携シンポジウム

「市民参加型の電子自治体の実現を」

榎並 利博氏(兜x士通総研公共コンサルティング事業部 シニアマネジングコンサルタント)

  

 

 ただ今ご紹介頂きました、富士通総研の榎並です。本日は皆様お忙しい中お集まり頂きまして、有り難うございます。私はいつも「電子自治体」あるいは「e-Japan」というテーマでお話をしております。特に自治体の職員を対象に、「電子自治体というのは、これからこの様に作っていくべきだ」といったお話をしているのですが、今日は少し話の趣旨を変えて、「市民参加型の電子自治体」−Empowering Citizen with IT−という事で、ITを使って市民をどんどん力づけていこう。それによって、本当の自治を作っていこうという趣旨でお話をしたいと思っております。

 

e-Japan戦略

 今、e-Japan戦略が進んでおります。特に行政におきまして、2003年度は一つの重要な節目になっております。と言いますのは、2003年度は「電子政府・電子自治体」の一つの目標年度になっているからです。e-Japan戦略全体としては、2005年をターゲットにしています。2005年には、3,000万世帯が常に高速のインターネットに繋がり、更に超高速のインターネットに1,000万世帯が繋がっていると。要は、日本全国殆どの世帯がインターネットに繋がった、そういう社会を築いて行こうという目標に向かっているわけです。そして、そのための国家的な電子基盤を作るために今、政府と自治体が協力して「電子行政基盤」というものを作っているわけです。

 その重要なものは三つあります。一つは「住民基本台帳ネットワーク」です。昨年8月には内部稼動して、大分マスコミにも取り上げられましたが、今年8月に住民向けのサービスが始まり本稼動に入って行きます。もう一つは「総合行政ネットワーク」で、2003年度中に全国の自治体を繋ぐ。そして「認証基盤の整備」。これは組織認証と市民一人一人の公的個人認証を2003年度中に運用して行くと。このようなスケジュールがあるわけです。

それと同時にGISといった整備も進められており、2005年にはGISの基盤を皆が自由に使って、いろいろなサービスが受けられる社会にして行こうという事で進んでいるわけです。

 e-Japan戦略においては、こうしたIT基盤をどんどん作っていく事で「電子政府・電子自治体」、つまりパフォーマンスの良い政府を作る事を目標としています。

 もう一つの目標としては、e-Japanをやることによって経済を活性化して行こうと。新しいサービス、新しいビジネスをどんどん作って経済を活性化するといった狙いもあるわけです。こうした観点は私も同意していますし、話しもしています。ただ、こうした事が本当に幸福な市民生活に結び付くのか、というところに少し私は引っ掛かったわけです。経済的な観点だけで物事を考えて良いのだろうか。本当に幸福な市民生活にするようなIT活用というのは何だろうかという事を少し考えてみたわけです。

 

 (1)幸福感とは何か

そこでまず頼りにした論文が一つあるのですが、スイスのチューリッヒ大学のFrey Stutzerという人の、市民の幸福感というものをいろいろ研究した論文です。何故スイスかと言うと、こうした研究が出来るのはスイスだけなのです。収入と幸福感はどの様な関係にあるのか、という事はいろいろな方が研究しています。但し、行政の制度と人々の幸福感がどの様な相関関係にあるのか、という事を発表したのは多分この方が始めてだろうと思います。いろいろな行政制度の違いによって幸福感にどの様な違いが出て来るのか、といった調査が出来るフィールドはスイスしか無いのです。なぜならスイスには、今26の州がありますが、ここは直接民主制が非常に発達しています。そして州毎に制度が違っていますので、直接民主主義の度合いが全部違うわけです。そこで、それと個人の幸福感というのが一体どんな関係になっているのか、という事を彼らは調査研究したわけです。

ここで示しましたのが、スイスにおける州の直接民主主義インデックスです。満点が6点で、完璧な直接民主主義の州です。逆に点数が低いところは、かなり制限されておりまして、直接市民が政府に代わることが中々出来ないという状況になっております。見てお分かりの様に、ジュネーブのような大都会ですと、かなり制限されています。逆にバーゼラントでは6点に近い。この様に皆バラバラです。

では、それとそこに住んでいる人々の幸福感とはどんな関係があるのか、統計的に調べてみると面白いことが分かって来ます。これは単に行政制度だけではなく、収入面なども調べていますので、いろいろな面白いことが分かっているのですが、例えば男性と女性、あるいは本国人と外国人という比較も出来ます。この論文の結論から言いますと、直接行政や政治へ参加できる制度や地方分権が整っている州に住んでいる人ほど、より多くの幸福感を感じているという事が分かりました。それから、収入と幸福感というのは比例します。ただ、収入もある一定の額以上になりますと、高収入であってもそれほど幸福感は増大しません。逆に失業がもたらす不幸感というのは、物凄く大きいという事も分かって来ました。それから外国人については、スイス人と同じ様に行政プロセスの結果から利益を受けています。ただ、外国人の場合には行政に参加する権利が非常に制限されていますので、直接民主主義の度合いがかなり高い州であっても結構、不幸感を感じているという事が分かったわけです。

このようなスイスの例が日本に当てはまるのか、という様な見方も出来るのですが、やはり一つの成熟した社会として、市民が行政に参加すること、それと幸福感というのはやはり何らかの大きな関係を持っているだろうと推測することが出来るかと思います。

 

(2)行政において、市民の行政参加あるいは直接民主主義が必要なのか

では本当に行政において、市民の参加であるとか直接民主主義が今の日本で必要なのだろうかという事ですが、これは普通の教科書に書いてある様な図ですが、要は民意をきちんと反映させるための仕組みというものが、ちゃんとあります。選挙で選出された知事や市長が官僚機構に指示をして、民意に従った形で執行して行く。あるいは選挙で選出された議員が立法機能やチェック機能を使って、行政機構を監視して行く。この様な形で民意が反映されていると。ところが実態をいろいろ見てみると、どうも民意が反映されていないのではないかという例が窺われます。確かに民意を反映した形で知事や市長、議員が選ばれます。但し、そこでの指示がそのまま民意を反映したものであるか、というとどうも違った形で出て来る。

こうした実態があるのではないかという事で実例を調べてみますと、例えば無党派の知事が結構出て来ます。長野県の田中知事はその最たるものだと思うのですが、従来の中央との太いパイプを持っていて国から予算を取って来て地域に落とすというやり方に不信感を突き付けた。これは41年間ずっと副知事が知事をやり続けているといったところで、全く関係の無い人が知事になるという事が起こったわけです。このように、極めて民主的な手続きで県民は従来の構造を変えるという事を望んだわけです。ところが議会はそれに反対した。結局もう一度再選挙して、やはり田中さんが支持された。このような事態になって、議会とは一体何だという議論も起こっております。

あるいは住民投票というものも最近になって増えて来ているという事が言えると思います。新潟県の巻町(原発建設)や岐阜県の御嵩町(産業廃棄物処理施設の設置)や徳島市(吉野川河川堀)等の例は皆さんも聞き及んでいると思います。最近では特に公共事業に対する不信があります。要らない空港やダムを造っているとか、合併問題で住民投票をする例もありますし、あるいは環境問題で住民投票をするという動きも出ております。どうも、市民の意思やニーズと行政・議会との意志というものが乖離(かいり)しているという事が窺えるのではないかなと思います。

住民投票の動向をグラフで見ると、せいぜい5件以下だったのです。しかも請求、提案、可決して、はじめて住民投票が実施されますので、殆ど95年までは実施された例はありません。96年にやっと1件実施されましたが、これが巻町の原発問題です。その後2000年にかけて毎年10件、20件の請求や提案がどんどん出て来て、しかも実施までこぎ着けている例も毎年何件が出て来ている。このように、行政、議会と市民との意志が乖離している現象が最近特に多くなって来ていると思います。また市民の方も、単に行政に反対するだけではなくて、自ら行政に提案して行くという動きも実際に出て来ているわけでございます。

例えば三鷹市では、「みたか市民プラン21会議」というものを市民自らが作っています。従来は、市民参加といっても要望を提示するといった形でしたが、単に行政に「ああしろ、こうしろ」と言うだけではなくて、市民自ら市民の意見や苦情等を取りまとめ、そして行政に対して「こうした行政をやって行ったら良いんじゃないか」という事を提案するという形で、市民も大きく変わって来ているといった現状があろうかと思います。

こうした動きに対して、行政側もそれに応える形で、市民のニーズをきちんと行政に反映させる仕組みが必要だろうという事で努力していらっしゃると思います。例えば「まちづくり条例」といった条例を制定する自治体も出て来ております。北海道ではニセコ町の「まちづくり基本条例」が有名だと思います。この条例の中では、「情報共有」と「住民参加」を柱として、「自ら考え、自ら行動する」まちづくりをして行こうという事がきちんと謳われております。その原則としては、「情報の共有」、「情報への権利」、「説明責任」、「参加原則」が掲げられております。そして、その情報を行政だけで独り占めするのではなく、町民と共有するといったところから、第一歩が始まって行くのだろうと思います。

また、最近特に使われる手法としてPI(パブリックインボルブメント)も盛んになってまいりました。元々はアメリカで発達した概念なのですが、文字通り住民を巻き込んでいくという意味で使っております。当時は60年代だったと思いますが、高速道路の建設反対運動があちこちで起きて、工事がストップするという事態になりました。ということで、行政側で作った計画をそのまま住民に押し付けるというのではなく、その計画を作る段階から住民を巻き込んでいく。そして住民に理解してもらって、住民の意見を反映させた形で計画を修正していく、といったやり方で事業を行っていこうという手法です。

今、日本でもあちこちでやられていると思います。やはり従来型の公共事業に対する市民からの不信感をどうやって解消していくのか。あるいは、この長期的な経済低迷による重税感というものがありますから、本当に税金が有効に使われているのか、といった事に対しても答えて行かなければいけない。あるいは環境問題ですとか、地方分権、市町村合併という事に対して、行政が考えて一方的に押し付けるという事ではなく、住民の方と一緒になって考えていくという事が重要視されて来たといっても良いと思います。実際に国の新道路五箇年計画にしろ、グランドデザインにしろ、PIをやっているわけです。内容はともかくとして、こうした動きが行政側にもいろいろと出て来ている。ここまで日本の行政も今進んでいるといっても良いと思います。

 

(3)ITで市民の行政参加を強化すれば、市民の幸福感増大につながる

このように考えて来ますと、ITを使って市民の行政参加をどんどん強化していけば、市民の幸福感につながるのではないかなという事が一つ言えると思います。これが全てではないと思いますが、今までのような背景を考えますと、行政のいろいろな事務や事業の執行に対して、市民がいろいろな形で参加していけば市民の幸福感増大にもつながる。そのための手段としてITというものが有効ではないだろうかと考えられるわけです。

行政活動というのは、計画、執行、評価という段階があろうかと思います。そのそれぞれの段階において、いろいろな市民参加のあり方がある。そこでのIT活用というものも今、いろいろな事例が出て来ておりますので、ご紹介したいと思います。

@計画段階における市民参加

例えば、「計画段階における市民参加」としては、市民と対話をする、意見交換をするといった事が非常に重要になって来ると思います。政府におきましても、タウンミーティング担当者を決めて、そこでいろいろなアイデア募集や国民との意見交換といった事をやっているわけです。このようにタウンミーティングをして、直接的に話しをするという事が出来れば一番良いかと思います。ただ、そうは言いましても全ての市民がその場に参加出来るという事にはなりません。ですから、その場に参加できない市民のために情報を提供したり、あるいはそうした市民から意見を募ったりする事が一つ必要だろうと思います。

政府のホームページでもタウンミーティングをした後には、情報提供をしております。議事要旨がどのようなものであったのか、大臣はどのような事を話したのか、今はインターネットでこうした動画で情報を提供するという事は簡単に出来ます。こうした形でどんどん市民に情報提供して行くといった形が一つあるだろうと思います。

もう少し高度なやり方としては、インターネット上で市民と情報交換をしながら政策を形成して行く、というような事にも使えると思います。東京都が行った例ですが、従来ですと懇談会や委員会を作って、そこに大学の先生や有識者を呼んで来て、そこで計画を決定してしまう。そして市民に対して「計画がこのように決まりました」と一方的に押し付けるというやり方だったのです。ところが、そういったやり方を取らずにインターネットを使って政策形成をしていく、という事を行ったわけです。これは、パワーポイントやPDFを使って多くの情報を提供し、東京都の考え方をきちんとプレゼンするという事をしているわけです。それに対して都民からいろいろな意見をもらう。そして政策を練り上げて最終的なところに取りまとめる。このような使い方をしているわけです。

また、電子会議室もあります。この先鞭を付けたのが、神奈川県の藤沢市です。北海道では札幌市の電子会議室を私も知っていますし、結構有名だという事も存じ上げております。藤沢市の場合は、数年位の経験があります。インターネットの場面を使って市民と行政側の職員がいろいろな意見交換をする。あるいは市民同士が意見交換をする。こうした場作りをしているわけです。この電子会議の問題点というのは、意見を言い合うだけで終わってしまうという事にあります。そういった事で終わらせないために藤沢市では、この電子会議室の裏側にきちんとリアルな形での運営委員会を作っています。そこで議論した内容を取りまとめて行政側に提言する。それに対して行政側がどういう答え方をしたのか、という事もちきんとフィードバックする。このような事も行っています。

市民側も、例えば「みたか市民プラン21会議」といったサイトを立ち上げて、市民の声をいろいろ募集しています。この市民会議の一つの問題点は、ここで言っている意見が本当に市民全体の意見を集約したものかどうかという事です。人口16万人のうち約400名が参加していますが、それが本当に市民全体の総意と言えるのかどうかという事が問題になっています。彼らは、一つはこうした電子的な形で市民の声を集める、あるいは街頭に出ていろいろな市民の声を拾う、といった活動をしながら政策を形成していったわけです。 

また、市民の意見や要望、苦情をどんどんデータベースとして取り込んで行こう、といった事をしているところもあります。宮城県の例ですが、いろいろな意見や要望、苦情といったものが県民から来ます。それを全てデータベース化して、その回答を付けてきちんとインターネットで公開する。まずはこうしたやり方で、行政がどのように考えているのか、という事が県民に分かりますし、来た意見や要望を分析して次の政策立案につなげて行くという事も出来ます。まだ、どこの自治体も政策立案に結び付けたことは無いと思いますが、最近私の方で募集しまして、意見や苦情が3,000件位集まったのですが、それをツールを使って分析して、今の行政にはこういった見方が足りないのではないかという事で提示する。そして行政の方といろいろ議論しながら、次の政策立案に生かして行くという事を実際にやり始めています。

そして、これからどんどんインターネットが普及して行き、一家に必ず一台パソコンがあって、常にインターネットに繋がっているという事になりますと、そうしたITを使って市民の意見をモニタリングする事が出来るのではないかと思います。セントポール市では、まだお遊び程度だと思いますが、「セントポールの地域社会において、あなたは何を変えるべきだと思いますか?」というアンケートをしました。選択項目が5つあって、「学校制度」「コミュニティの風土」「安全」「地域社会のビジネス」「就労のしやすさ」の中から選択してもらうわけです。「就労のしやすさ」を何とかして欲しいというのが半数位、他に「学校制度」とか「安全」の面をもっとやって欲しいという事でありました。このようにインターネットで市民の要望を収集する、といった事をしております。

こうした使い方は、まだ即行政に反映するという事はないと思うのですが、いろいろな形で出来ると思います。古川市でも、「市長さんにお願いランキング」というのがありまして、議員数を削減しようというのが一番トップに来ています。二番目は議員数はそのままで良いという事で、いろいろ言い合っているようですが、こうしたランキングなども自動的に取れるわけです。厳格な個人認証はありませんから、一人の人が何度も意見を出しているという事もあると思いますが、このような形でこれから市民の意見もどんどん収集出来るようになる。ということになると、こういうものも利用して政策立案に生かせるというように思います。

 

 A執行段階における市民参加

それから、執行段階においてどんな市民参加があり得るのかという事ですが、まずは情報をきちんと公開する。そして行政のプロセスを透明化する。実施事業の進行管理をきちんと市民に見せる。あるいは議会の情報を提供する。こうしたところからやって行くべきだろうと思います。

産廃問題で揺れた御嵩町ですが、ここでは情報公開という事でいろいろな情報を提供しています。「産廃処理場問題に関する行政関係資料」のところをクリックすると、やたら膨大な情報が出て来ます。当初の計画から町と県との関係、あるいは県はどのように回答して来たのかなど、殆ど内部資料ではないかと思う資料まで、片っ端から全部出しています。こうした形で町民と情報共有をして、町民と共にこの問題を考えて行くという姿勢が重要だろうと思うわけです。

神奈川県横須賀市の例ですが、ここは電子入札をした事で非常に有名になりました。そして入札結果をホームページ上で全部公開しているわけです。今となっては結構やっているところはあると思うのですが、一番最初にやった時には非常に新鮮だったと思います。業者名や応札した金額が全部出ているわけですから…。このように、プロセスを透明化して行く。

また、その進行管理チェックシートをきちんと市民に情報提供するという事も川崎市では行っております。ここでは地図も上手く使っていまして、例えば自分の家の近所で工事をやっているが、一体何をしているのかという事で、その場所をクリックしますと「進行管理チェックシート」が出て来て、どういった事業で誰を対象にどんな事をしていくのか、どれ位の計画年度で予算はどれ位か、という事が情報公開されています。こういった形で事業の執行に対しても、きちんと市民の方に理解してもらおうと。これによって市民も行政が今何をしているのか、どれだけ金を使っているのかという事を把握出来るようになるわけです。

それから議会の情報ですが、これも今となっては結構、会議録が提供されていると思います。議会というのは、行政をけん制する機能を持っておりますから、どんどん情報を提供して行かなければいけないと思います。市川市の例ですが、ここは市役所のホームページで議事録を出しているわけです。本来、行政と立法は別ですから、議会は本当はきちんと別のサイトを立ち上げて、議会として情報提供をして欲しいと思いますが、現実には行政に間借りしている議会が殆どでして、やはりそれは非常に問題ではないかなと思います。議会の事務局を行政職員がやっている事自体、大きな問題なのですが、議会は議会として自分たちで情報提供していく。先ほど意見や苦情のデータベースの話もしましたが、行政だけがやるのではなく、議会は議会としてデータベースを作って市民の意見を収集するという事をもっとやって行かなければいけないだろうと思います。私も議員の方とお話しする機会があるので、そういう事をガンガン主張するのですが、「言うことは分かるが、俺達の歳も分かるだろう」という事を言われます。実際に40代で若手だというケースが殆どですので…。

 それでは、ここで少しGISに絡んだお話をしたいと思います。カリフォルニアのサンタモニカ市では、既に10年位前になりますがパソコン通信の時代に、行政と市民とでいろいろな意見交換をしながら政策を作って行ったという事で非常に有名になりました。ここでは特に、今行政が持っている情報、また情報だけではなく仕組み等もどんどん提供して行く。こうしたことで市民と情報共有をし、一緒になって町づくりをして行くという方法でITを使ったわけです。その中でも特に評判が良いのがGISだという事で紹介されました。ここで面白かったのは、パーセルマップという地図があります。これは土地を管理するような地図なのですが、所有者や住所から土地を検索することが出来ます。あるいは土地から所有者を検索することも出来ます。例えば市長名で検索すると、2件ばかり出て来て、どこにあるかという事も簡単に分かります。技術的には日本でも簡単に出来ると思います。ただ、日本でこれをやると、プライバシー問題はどうするんだという議論がワーッと起き上がるのではないかと思います。彼らはプライバシー問題に鈍感なのではなくて、こうした情報をどのように提供すべきかという議論はきちんとされております。議論といっても行政だけで決めているわけではありません。市民も入った一つの委員会で、こういった情報は提供しても良いのかどうかという事を判断して出しているわけです。そして彼らの判断としては、こんな情報はプライバシーでも何でもないという事です。実際に私も不動産屋に行きますと、不動産屋のおばさんは何処の土地が誰のものか全部知っています。実際に何がプライバシーなんだろうと思います。

 もう少しドラスティックな例を出しますと、行政がどんどん情報提供すると、地域におけるNGONPOがそのデータを上手く使って、いろいろな情報を市民側に提供します。行政にとってはあまり良い情報ではないのですが、例えば有害大気汚染のマップなどを作って出すわけです。あるいはもっと凄い例は、「ここら辺に住んでいる人は癌にかかるリスクが非常に高いです」とか、そういう情報をバンと出す。これは行政がそのまま出すと問題になるでしょうし、隠すとか隠さないとか、いろいろな議論はあると思いますが、行政が出来ない事をNGONPOがやるという事は一つ意味があるだろうと私は思います。

 

 (4)パブリック・ガバナンスのIT革命とは

 最後に、パブリック・ガバナンスのIT革命とは何かという事ですが、要は直接民主主義と間接民主主義の問題です。これを考える上で、ロバートAダールの本を借りました。彼の指摘によれば、間接民主制(代表制デモクラシー)は「闇の側面」を持っている。要はエリートによる取引が存在する。そして、市民はそのことを分かっていて、これは代表制のコストの一部だということで容認しているのだと言っています。これは私は正しいと思います。こうしたことで逮捕される人もいましたが、それが実態であって、そういった仕組みを今まで日本の国民は容認していたというように思います。そして現代は、間接民主制と直接民主制のどちらが良いのかという問題ではなくて、市民がそういった「闇の側面」をコストとして容認できなくなってきた時代であると捉えるべきではないかと思っています。こういった「闇の側面」というものが現在の閉塞感というものを生み出している元凶ではないか、と私は感じております。

そこで、直接民主主義的要素を入れた市民参加で、「闇の側面」を排除して、社会的な閉塞感を打破する。そのためにITというのはツールとして充分使えるのではないか、と私は感じているわけです。ITパブリック・ガバナンスと言っておりますが、社会的責任と使命感をもつ、創造性の高い市民がこれからどんどん出て来るだろう。そして「闇の側面」を葬り去って、閉塞感を打破する。そして今後の行政事業に対して、市民が自発的な供給体制を整備する、というところまで持って行けたらなと感じております。もう一つ、このITパブリック・ガバナンスが持つ意義として、市民がコントロールして新しい技術を使って行くところにあるのではないかと思っています。

現在の統治機構のコンセプトは、「寄らしむべし、知らしむべからず」です。まず、エリート選抜によって三権分立の構図が出来上がり、それによって統治すると。しかし、社会の多様性や専門性に対応できなくて、いろいろな綻びが出ております。これからは、国民一人一人が責任をもって構築する社会になっていかなくてはいけないだろうと思います。一部のエリートだけではなく、柔軟に一般市民や専門家を登用する。あるいは市民が参加出来る。こういった仕組みがこれからの社会のあるべき姿だろうと思っております。

実際、今の特にITの関係でITゼネコンを生み出しているとか、ITでおかしな安値の入札が続いているとか、いろいろな批判があります。ところがアメリカに行くと、あまりそういう話は聞きません。というか、殆ど無いのです。先月もアメリカへ行って、そういったいろいろな調査をして来たのですが、どうもそこには人事の問題が非常に大きくあるのかなという感じを持ちました。人事制度が日本とアメリカでは全く違います。いろいろな行政におけるITのキーパーソンに会って来たのですが、彼らと話していると、ついこの前までIBMにいたとか、ユニシスの副社長をしていたとか、あるいはIT専門のコンサルティング会社にいたとか、そういう人物ばかりなのです。要は、ちゃんとITの事を知っている人間が仕切っているわけです。ところが日本はどうかというと、上で仕切っている人間が本当にITの事を分かっているのか…。特にプログラムを作った事もないし、システム設計をした事もないし、ましてプロジェクト管理をした事もない。そういった人間がIT入札の仕様書を作れるわけがありませんし、業者が提案書を持って来ても、きちんとした技術評価が出来るとは思えません。そういったところに、根本的な問題というか違いがあるのではないかなと感じています。

 

●例えば、市民参加によって問題が解決できる

それでは、先ほど市民がコントロールするような社会で、どんな問題が解決できるのかという事ですが、今、住民基本台帳ネットワークがいろいろ騒がれております。行政の現場からすると、「この住民基本台帳の番号はあちこち制限されては効率化にならない。返って無駄を作るだけだ。民間には絶対に利用させない」といった事を言っているわけです。実際にこうした統一番号が出来れば、それによって効率化できる部分というのは、行政の中に非常にたくさんあるわけです。ところがマスコミやジャーナリズムの反応は、「こうした番号で国民を統制するのだろう!プライバシー侵害につながる。民間に漏洩するに決まっている」という事で議論が出て来ているわけです。

では、これはどのように考えたら良いのだろうかという事です。少なくとも、このITを使って社会経済が新しく発展していくためには、何だかんだ言っても個人情報の活用は必須なのです。皆さんも身に覚えがあると思うのですが、皆さん方の個人情報というのは、巷で全部売り買いされているのです。知らないところで知らない内に流通している、これが現状です。では、この個人情報の利用やプライバシーについては、行政が決める事なのだろうかという事です。問題解決の視点としては、まず国というのは「統制・統治する他社」ではなくて、本来は自分自身として捉えるべきだろうと。そして、自己情報については自分自身でコントロールするといった自己責任も必要になって来る。やはりこういった問題は、行政に任せて問題を押し付けるのではなく、市民が参加して、市民も一緒になって統制していく。あるいは市民が一緒になって解決していく。こうした仕組みが必要なのだろうと思います。

これはかなり先走ったような絵なのですが、一つの自治体というように考えても良いと思います。ここでは、個人情報を持っている。もちろん法律に基づいて利用するというものもあるのですが、それ以外については個人の任意で登録してもらう。登録した情報は市民参加による委員会で決めた規則に則って民間企業に利用してもらう。そういったことで、民間企業も個人情報を使った新しいいろいろなサービスが出来る。この規則に反した場合には罰則を与える。こんな形でコントロールして行かないと、新しいものは生み出して行けないのではないかなと、この様に考えております。

最後にもう一度、ITを使って市民に権限を与えよう!力を与えよう!そして地域を元気づけて行きたい。こんな事を私は感じております。どうもご清聴ありがとうございました。