航空・空港問題特別講演会

「世界の潮流としての空港民営化と広がるビジネスチャンス」
渡邊 信夫(プロジェクト・コーディネイターズ・フォーラム代表)

 

■はじめに

ご紹介頂きました渡邊でございます。私は北海道へ時々参っておりますけれども、空港問題では数年前に、「国際ハブ空港」の問題で山本先生達が研究会をお作りになった時に、後で話が出ますがBAA(英国空港会社)のアイリスさん達を招かれてシンポジウムをやられて、その時にお邪魔させて頂きました。そして昨年、当時の北東公庫総裁 浜本氏から頼まれて、国土庁の事務次官をされました下河辺さん達と、苫東の問題を東京でいろいろ検討しておりまして、あそこを活用した「グローバル・マザーエアポート構想」、つまり新千歳空港を中心にした大規模な産業基地にしてはどうかという提案を策定し、そのお話を紹介しに参りました。

本日は、それとは全く違いまして「空港民営化」というテーマなのですが、ご参集の皆様はまだお馴染みでないかも知れません。ただ、ヨーロッパを始めとして世界の多くの国では、これがかなり本流になって来ております。それによって、空港だけではなくて、いろいろなビジネスが展開しておりますし、そういう民営化が進んだ空港周辺の地域や国がさまざまな活性化を進めております。そういう意味合いでは、ハブ空港への対応と同じく、日本の航空行政の遅れではないかなと心配をしているところであります。

今日はお配りしたレジメに従って、限られた時間ですので要点だけお話をしたいと思います。またこれは、航空・空港のことだけではなくて、その地域や都市のあり方に関わる大変重要なことだということをご理解頂ければと思います。それから若干宣伝になるかも知れませんが、東洋経済新報社から「空港民営化」という本を出させて頂きました。これは、ある面では小泉内閣が進めている特殊法人改革や、空港や道路など社会資本のある部分では民営化が可能であること、成熟した国では、そういうものが民営化によって非常に効率的に運営され、また民間の側から見れば新しいビジネスチャンスが生まれるということなどを紹介しております。社会資本全てが民営化できるとは私は思っておりませんが、交通や経済に関わる基盤になっている社会資本というのは、そういうチャンスが非常にあるということで、鉄道に続いて空港というのも、そういう面では大変ダイナミックに展開する要素を持っていると思っております。

21世紀地球社会に必須となる戦略的航空システム

そこで、レジメで空港の民営化の状況なり、民営化とは何かということを少し触れたいと思います。まず、「21世紀地球社会に必須となる戦略的航空システム」と、次の「小さな政府の実現に対するコンセンサスの形成こそが出発点」という二つの点は、社会資本整備あるいは社会資本サービスの民営化の前提として、日本の社会においても考えておかなければならないことだと思っております。

その二つの前提的な課題ということを簡単に触れさせて頂きます。一つは航空ネットワークの意義です。これは今日のグローバル社会にとって、ある面ではITを中心とする高度情報ネットワークなどに比べると、あまり意識されておりませんが、私はそのグローバルソサエティ(いわゆる“一つの地球社会”)をいろんな形でダイナミックに実現して行くための基軸となるメディアの両輪だと考えています。もちろんグローバリゼーションの光と影ということが最近言われていて、マイナスの面も確かにあるわけですけれども、グローバリゼーションそのものを阻止するわけにはいかない。それをどの様に有効に生かして行くか、有効に取り込んで行くかということから見たときに、これら二つがグローバルなメディアがあって、その一つがITシステムで、これは主としてディジタル型の世界的なネットワークです。それに対して、航空というのは人や物を運ぶ、交通輸送のシステムだと考えられておりますが、情報化社会という面から見ると、これは大変重要な意義を持っていまして、ITのディジタルシステムに比べて、アナログのシステムなのです。要するに、人自身が行き来し、ホットな情報交流を行ない、新たな創造を生み出す。この両方がグローバルに見て、それぞれの地域や国の将来のあり方に大変大きな影響を及ぼすのではないか、そういう意味合いから航空・空港のネットワークシステムということを考えて行く必要があるというふうに思っております。北海道あるいは道央地区さらには札幌でものを考える時にも、この点を意識することが一つの前提として大事になって来るのではないか。交通・物流ということだけに捕われない意味合いを航空ネットワークに意識し、それにそのような役割や機能を課して行くことが重要だということが第一点であります。

■「小さな政府」の実現に対するコンセンサスの形成こそが出発点

もう一つは、空港の民営化を含めて社会資本の民営化をするためには、日本の将来の姿、特に、近い将来の国の統治のあり方がどうあるべきなのかということを考えて行く必要がある。しかし、そこのところが政治や行政の場を眺めていますと、必ずしもキチッとされていないのではないか。

イギリスを始めとしてヨーロッパ諸国、アメリカにおいてもレーガン政権の辺りからそうなのですが、国の将来の統治のあり方として、「小さな政府」でなければならないと明確に方向づけられてきた。それは、社会の成熟化に伴っていろんな制約が出てくる、特に財政出動の制約に対応して、どうやって効率的で公的負担の小さな政府にして行くかということを政治の場を中心に苦労されながら道筋を組み立てて来られている形跡があります。

例えば、イギリスでは、1979年にサッチャー政権が発足した時に、サッチャーはイギリスの近代史上で三選を果たした唯一の首相でありますが、非常に明快にパブリックセクターの縮減に関する公約(要するに小さな政府を目指すということ)を出され、それを進めて行く中で、それまでの国有など公企業の民営化をはじめ、航空企業、空港、鉄道などの民営化を進めた。様々な社会資本に関わる、あるいは公共サービスに関わる分野を民営化して、それによって英国病と言われた経済体質を非常にダイナミックなものに変えて行ったという流れがあります。つまり政権として、非常に明快に方向づけて、そのためにどういう枠組みで何をして行くのかということをキチンと論ぜられている経過があります。

日本の場合も、橋本政権あたりから、そういう流れが出ていますし、99年に政府の中央省庁改革推進本部(本部長・小渕首相)が省庁再編関連法ということで、112省庁に行政改革をしたわけです。これによって、行政体の形だけは再編されました。その時に、その文言の中には「小さな政府」の実現を目標にするということが明記されておりますけれども、どうも、政治の場、行政の場を通して「日本はどういう形の小さな政府にするんだ」という議論が充分になされた形跡を見とめることが出来ないのです。そのため、今日の特殊法人改革においても、その大元の方が十分に論議され、ハッキリしていないので、そこで政治家や官僚のスタンスがバラバラになる。一つの党であってもバラバラになる。まして政と官の間で軋轢の議論が起こる。「抵抗勢力」なるものも出現する。国民や企業の中にも、そういうものを充分に認知していないというような形になる。イギリスなどの流れを見ていますと、キチッと政治の場を通して議論をされて、サッチャー政権からメジャー政権、そして今日のブレア政権に至るまで、党派が変わっても方向は一貫しているわけです。その中で個別の様々な改革が進められている。今日の主題ではありませんが、そういうことがなされていないと、特殊法人改革も、これから申し上げる空港民営化という政策も、なかなか巧くは進まないのではないか。

この点が民営化を推進するに当たってのいま一つの大きな基盤になる条件としての課題ではないか。それに伴って、政治・行政の場だけではなくて、産業界の場においても、民間の我々個々人におきましても、当然小さな政府にならざるを得ない中では、それに伴ういろんな「痛み」を理解し、受けとめて行かざるをえないのです。自己責任、自己負担という問題も大きく現実化してくるわけです。そのことも充分に浸透させながら理解を得て行くことが、より新しい形のダイナミックな産業や経済の活性化につながって行く可能性だと言えるのではないでしょうか。イギリスを始めヨーロッパ諸国で空港の民営化等がかなりうまく進んだのに比べて、いま日本が取組もうとしている状況と対比して見ますと、そこのところが大変曖昧で、両者の違いがみられるところだなという感じがしております。

■海外諸国で展開する空港民営化

 1.「社会資本サービス」民営化の意義

そこで、海外諸国で展開する空港民営化というものが、どういうものなのか、そして将来日本にも取り込めるのかという観点から、この点に触れたいと思います。

ここで、空港民営化の枠をもう少し広げますと、空港だけではなくて、鉄道であったり、道路であったり、ダムであったり、様々な社会資本が経済社会の中には存在しますし、それの多くは公共事業という形で投資がされ、整備がされて来ました。その結果、国民や地域住民、あるいは利用者などからみると、それらの社会資本が果す役割や機能、つまり提供されるサービスをどう考えるかということが重要なのではないかと思っております。「サービス」というのは、社会資本ですから、必ずしも商店や様々な産業から受けるサービスとは異なり、その社会資本があることによって、その影響や効用を個人が受けたり、国民が受けたり、地域社会が受けるわけです。例えば国土保全に関わる社会資本(海岸堤防や河川堤防など)がどういうものであるのかというと、その地域が高潮や洪水から守られるという社会資本としてのサービス、つまり保全の効用があるわけです。そういうものをどこまで民営化できるのかということについて、議論をしていく必要があると思いますが、社会資本全てが民営化できるということでは必ずしもありません。本日申し上げるのは、主として空港を民営化することによって、それを利用する人達や、そこから影響を受ける様々な産業や地域・都市が、よりダイナミックに新しい可能性を打ち出せるというようなことを申し上げたいと思います。

そこで民営化の狙いということを幾つか整理させて頂きました。まず基本的に4つの点を挙げて見ました。なぜ民営化するのか、民営化する狙いは何かということなのですが、実はこれは本来的に言いますと、「官」と「民」と「政」の点から言えば、産業とか民間の側から出てくるものではないのです。本来的には、官の側あるいは政の側から出てくる。イギリスを始めヨーロッパやアメリカ、最近ではオーストラリアやその他の国でもこういう流れがありますし、中国ですら民営化というものが空港にダイナミックに取り入れられているわけです。

それは何故か。まず第一点は、「官の負担を軽減する」ところにあるわけです。今、道路公団などの特殊法人改革をご覧頂いたときに、日本の現状と、ヨーロッパなどの民営化が進めて来られた国を比べて見ると、一目瞭然だと思います。本来は官の負担を軽減するために始められた。それは、財政出動を極力縮減した小さな政府でなければ、将来、国が運営して行けないというところにあるわけです。そういうところに注目する官や政の側の意識が重要になるわけです。政府の財政出動をできるだけ縮減する、それに変えてできる限り民の側でやってもらって、民に任せるところは任せる。そして資金調達についても、民の多角的な資金調達の力に委ねよう。それによって政府の歳出というものを、いろいろやりくりして来た状況から開放されて、貴重な税財源を中心にする公的財源を、成熟化していく社会の中で、より必要な他の分野に充当する。それが第一点の狙いです。

第二点は、今の裏腹なのですが、空港などの社会資本の一部を民営化することによって、新たに巨額の歳入を確保する可能性です。例えば、空港売却、あるいは政府100%の株式会社にしてその何%かの株を民間に売る。それによって資金を政府が調達できる。その調達した金は別のところに使う。このように新たな歳入源となる。もちろん英国の、かつての効率の悪い国営産業も、そういう形でいろいろな展開をして行くなかで、あるものについては新しい歳入源にもなってきたわけです。例えば後程申し上げますが、空港をリースすることによって、権利料を政府が受ける。あるいは空港を会社化し、その株式を上場する。ちょうどNTTの株がそうですし、JRもその後を追いかけていますが、そういう形で政府へ収入が入る。

第三点は、民のすぐれたマネジメントあるいは企業力を活用して、効率的な整備や運営を行なうことです。同様に、第四点は新しい社会資本等の効率的ですぐれたサービスを提供することです。この二点は関連しており、民間資金の活用や、民の経営力や人材の活用、あるいは施設等の運営を効率化するということです。お役所仕事の5時になったら閉まってしまうのではなく、深夜に至るまでサービスを提供することによって、コストはかかるけれども、そこで新しい収益を得るというマネジメント。そして、すぐれたサービスの提供というようなことを期待して社会資本を民営化するという流れになってきているわけです。

そういう政府側の事情が、一つの重要な狙いの原点だったわけですが、そのことによって、民の側にも新しい意義が生まれています。つまり、第五点として、新しい競争を通して経済産業を活性化させることです。例えば空港で言えば、官や公が独占していた資本に様々な企業体が関わることによって、新しい民間の参入のチャンスができる。その民の創意工夫や知恵の出しようによって、産業構造を変えて行こうということがありますし、更にそれが新たなビジネスに展開する。これが第六点です。この新たなビジネスの展開というのは、空港の場合でいうと、例えば空港オペレーターが国際的に進出してくるとか、投資銀行がアドバイスをすることによって、様々な今までにない事業に展開して行くという例が出てきております。空港では、新しく物を作る、あるいは整備をし直す、改良するということになると、かなりのコストが掛かります。ある面では、ハイリスク・ハイリターンの投資事業になるわけでありますが、現実には空港というのは、その地域に独占的な産業なのです。そこでショッピングモールをやっても、その地域を対象にすれば、かなり独占的な形でそれを成し得る。ハイリスク・ハイリターンの投資ビジネスなのだけれども、現実には空港需要というものが根強くあれば、そこでは地域独占型に近い事業として、非常に魅力がある。そういうことから、それが官から民へ開放されることによって、様々な企業体、産業、あるいは資本がそこに関わってくるという流れが出来てきているわけです。こういうのが空港民営化の狙いです。

 2.進む世界の空港民営化

それでは、現実に空港の問題を取り上げて民営化を眺めて見ます。この北海道は、45年前にお邪魔したときに全国で一番革新的だなと思ったのですが、BAA(英国空港会社、ここは世界トップの空港オペレーターで、非常に儲かっている企業でありますが)から山本先生達がアイリスさんという方をお呼びになってシンポジウムをやられました。その時、アイリスさんが、「日本で空港の民営化の議論が出来るとは思わなかった」と、後で懇談したときに申されたのですが、日本の行政の現状からいえば、空港だけに限らず規制が強く、そういうなかで空港の民営化の議論をおやりになったのがその印象です。

イギリスでは、サッチャー政権の時に、国営の空港、あるいは地方の公共団体がやっている空港の管理運営を、まず「空港庁」あるいは「空港公団」と訳しても良いかもしれませんが、そういう組織にして、次に政府が100%出資の株式会社に変えた。その次の段階では、その株を上場して一般に売る。今は完全な民間会社になっております。ただし、英国空港会社(BAA)の場合には、ゴールデンシェアーということで、一株だけ政府が持っています。これは、ある面ではギリギリのところの規制で、例えば空港着陸料がベラボウに上がり、それによって利用者が大きな損害を受ける可能性が出てくる場合に、拒否権が発動できるということで、一株だけは政府が所有している。しかし、実質的には民間会社の形で運営をされています。

資料
1の方に、BAAだけではなくて、世界の空港民営化がどういう段階で進められたかということを、我々が知る限り収録しておきました。

BAAの場合には、幸いにもターミナルでの商業機能(要するに小売機能)を中心に力を入れることで、空港自体が稼げる事業になったわけです。そのお陰で、着陸料や様々な空港利用料を値上げすることなく、非常に円滑にやってこられた。それによって、空港会社の最大のお客さんは、航空会社ですから、その航空会社から「そういうやり方なら、自分たちも賛同できる」ということで認知された。それがヨーロッパに広がり、世界の幾つかの所で非常に大々的に進められたわけです。現在では、ヨーロッパを始めとして、中南米やアフリカ、アジア、オーストラリア、ニュージーランドにも広がって、最近は中国でも北京空港などでは株式上場までして民営化が進められている。残念ながら、成熟国のなかで日本は、まだ歩を進めていないということになるわけです。

それでは、アメリカはどうなのかという話になるかと思いますが、アメリカでは実際には今申し上げた民営化というのは、さほど進んでいません。ただし、歴史的に見ますと、個別には民間の企業体が特定の空港に参入をして、実際に運営に関わっていたという古い歴史がBAAより以前にあります。例えば、1929年にはカリフォルニア州のバーバンク空港をユナイテッドエアポートが建設して運営をしていた。また、ロッキードターミナル(後に英国の会社に買収される)がニューヨークのスチュアート空港を自分たちで運営をした。そういう歴史はあるのですが、最近のBAAから始まる流れのなかでは、まだやや重い腰でありまして、ようやく連邦政府が「民営化パイロットプログラム」に着手した。これは具体的に言いますと、特定の空港を何箇所か選んで(現在5空港)、それによって民営化の先行実施をやる。そしてどういう問題があるのか、どういう形でやるとスムーズに行くのかというパイロットプログラムを始めたところであります。いずれはアメリカ政府も、連邦政府の投資という面から見ると、民に委ねて行くという動きになるのではないかと思われます。

 3.空港民営化とは

次に、空港民営化とは一体どういうことなのか、その方式とは一体どういうことかというのを簡単にお話ししておきたいと思います。大きくは、まず二つに分かれます。一つは、既に空港の基本的な滑走路や施設ができていて、今は公団などの公的機関が運営をしている既設空港の民営化です。もう一つは、全く新しく開発する空港、あるいは空港の一部、例えばターミナルなどを建設から始めてその運営を民営でやろうというものです。

それら二つによって、やり方が少し異なります。既設空港の民営化の方式については、大きく分けると二つの方式があります。一つは、株式会社化し、株式の上場です。先程申し上げたBAAがそうです。要するに政府100%出資の株式会社にして、その株を上場して、その結果、民間型の運営をして行くやり方。もう一つは、「トレードセール」。これは特定の第三者との取引で、政府が入札によってその特定の者に株式を売却したり、あるいは運営権を長期リースするという方法です。これは特定の者を、どうやって選ぶかということが問題になるわけですが、それには応募要領を広報して応募者を募って、その資格を審査して、株式なら幾らで買う、あるいは運営権のリースなら権利料を幾らでということを競争入札させるわけです。オーストラリアの17空港やアルゼンチンの33空港がリース型で、トレードセールをしています。これは一般の投資家を対象にしているのではなくて、むしろ空港のオペレーターという専門家の目を通してトレードセールをする。それによって評価をしてもらって、その空港の運営権を委ねるということになるわけです。これら二つが主流です。

次に書いてある「戦略的パートナーシップ」というのも、トレードセールの特殊な形で、株式の一部(50%以下)を入札によって国際的な空港オペレーターに売却して経営に参加させる方法です。トレードセールの場合は、まるきりそこに委ねてしまうわけですが、この場合はオペレーターを参加させて、本来の事業主体にいろいろなアドバイザーをさせる。あるいは経営上の役割を何か担ってもらう。その担い方は、いろいろ空港と条件によって異なってくるわけですが、そういう戦略的なパートナーシップという形で、専門の空港オペレーターを動員する方法です。

さらに多いのは、「運営契約」ということで、これはBAA型の民営化が進む前から、一部では取られていました。これはマネジメント自体を委ねるという契約ですから、主権が移ってしまうというものではありません。そういう意味では、巨額の権利料で長期の運営を任すという形とは違って、ある年限、契約によってマネジメントを委託するという方式です。先程も言いましたように、株式上場とトレードセールの方式が主流になっていて、その変形が戦略的パートナーシップや運営契約という方式であります。

そこで、株式を上場した空港を資料に挙げてありますので、ご関心のある方はご覧頂ければと思います。あるいは上場した空港会社の株価がどんなものかというのも、分かる範囲内で挙げてあります。このようなケースがが既設空港の民営化です。

新設空港の場合は、公共事業や海外のODA等ではいろいろある方式が導入されており、概ね同様です。資金の調達の仕方と建設、その所有のあり方、運営をどうするか、所有権をどのように移転するか。それらの選択によって、BOO方式とBOT方式があります。BOOの方は、民間の事業主体が政府から認可を受けて、空港を建設し、所有し、運営をする方法です。日本の場合には、空港で言えば関西国際空港や中部国際空港など、特認の株式会社法が設定されておりますが、いってみれば第三セクター型の方式で、資金調達を自分からもやっていますが、一部政府あるいは地方公共団体の資金が入っているというような方式で、これにあたります。BOTの方は、入札によって選ばれた権利取得者が自ら資金を調達して建設し、一定期間運営をして、契約期間が過ぎた後は政府や公的な組織に移管する方法です。ですから所有権はあくまでも政府側にあるわけです。この方式で行われているのが、アテネのスパタ空港、ニューヨークのJ.F.ケネディ新国際ターミナル、トルコのイスタンブール旅客ターミナルなどです。

このように民営化の方式は、新設空港と既設空港とでは異なります。次に、民営化の方式を決めるときの条件がどうなるのかということについて簡単に触れておきます。まず、入札における権利取得者がどのように決められるかということです。トレードセールやBOT方式のときに政府が入札によってそれを選ぶわけですが、多くのケースでは国際的な空港オペレーター(空港オペレーターの中でも、BAAを始めとして世界的に活動できて認知されているのは1015社位ある)が自国の企業等とコンソーシアムを組み、それから一つのコンソーシアムが選定されるというのが原則になっております。しかもその中で、外資の比率が50%未満であるということです。例えばオーストラリアのメルボルンの空港をトレードセールしようとするときに、オーストラリア政府にいくつかのコンソーシアムが応募します。そこで競争入札をして権利料の高いところが落とし、そのコンソーシアムがメルボルン空港の運営権をとるということになります。

次に、それでは権利料というのは、どのようになるのか。全体の権利料は一括払いで、かなり巨額になります。その他に年間の権利料とに分けられていているケースがありますが、年間の権利料は毎年定額支払うという形と、毎年の利益や収入に応じていくらの比率で支払うという形に決められる場合があります。これらのことは国の事情やケース等によって違います。

次に、トレードセールの場合、何年間リースをさせるかということがあります。これは空港だけではなくて、港でいうと公共のマリーナをこういう方式でリースさせるというのがアメリカ等では随分あります。その場合、何年間がリースの期限かというと、短いので10年、長いので99年という形で、かなりの投資を要する場合には一般的には30年程度のリース期間で、30年間問題がなければ、また30年やらせるというような取引になっている場合もあります。先程のイスタンブールの空港ターミナルの場合は、実際に資金調達をして、ある会社がやっているわけですけれども、これは驚くことに4年間のリース期間なんです。あまりに短いので、よくやれるなあという感じですが、実際にはかなりの規模のターミナルなのです。そういうケースもあります。

次の課題は、権利料の決定がどういう判断でなされるかです。専門的になってしまうかも知れませんが、実際にはそれぞれの取引で空港オペレーターという専門家の目を通して、政府や自治体とやり取りをするわけです。実際の空港活動に対してどれくらいの収益が得られるか、価値がどうかということを評価し、権利料として見るわけです。これに関しては、後述する投資銀行がアドバイザーとして関与するケースもあります。実際に投資をしている銀行の専門家によれば、EBITDA(これは負債の大きさや原価償却方法の相違等を除いた本業の収益力をはかる物差しで、利払前・税引前・償却前の利益に対してどれくらいの価格を持っているかというもの)を指標として評価するケースが多くあります。つまり年間利益に対して、何倍くらいがその空港や施設の価値なのかという計測をするわです。バブル期には、レジャーランドやリゾートでもそういう検討がされたと聞いていますけれども、過去の経験からは年間収益の約8倍くらいが、その空港の持っている価値だと言われています。それに対して今回の世界の空港事例で検討しますと、1521倍の価値が権利料から推定されるわけです。

4.空港民営化にともなう新ビジネスの展開

もう一つ大事な点は、そういう空港民営化が進むことによって、いろいろな新しいビジネスチャンスが出て来てビジネスが活発化しているということであります。その一つは、空港オペレーターそのものの活躍、しかもそれがBAAを始めとする、初期に民営化に関わったオペレーター達が国際的な活動に展開を広げているということであります。99年に空港を運営している会社のランキングが表6に出ていますが、これをご覧頂くと、収入の順に並べてありますが、英国空港会社が一番上のランクにあって、この会社は驚くなかれ世界の空港収入は約380億ドル(約45千億円)なのですが、それの9.3%を占めているわけです。2番目がフランクフルト空港会社ですが、これはその半分です。それから6番目と7番目に金額の面では成田公団と関空が出ています。オペレーターの平均収入は、年間約600億円弱で、営業利益は21%くらい。純利益で123%ということであります。この他に銀行の専門家に16ヶ国、36社のオペレーターについて損益状況、財務状況を分析してもらいましたが、そういうものから総体的に見ますと、もちろん空港によって違うことは違うんですが、民間事業として相当の収益力を持つ空港が世界にはかなり存在するし、日本でも成り立つだろうということであります。

次に、空港オペレーターが海外に進出して事業展開をしている。このことが空港をめぐる事業を非常にダイナミックにしている。先程のオーストラリアやアルゼンチンやメキシコといったところに、ヨーロッパの空港会社などが進出して、地元の企業資本とコンソーシアムを組んで入札し、落札して、何空港かをオペレーションするといったことをしているわけです。20019月時点で、22の空港オペレーターが世界62ヶ国300空港に進出しています。その22のオペレーターのうち、19は実はヨーロッパなのです。あとはカナダが2、シンガポールが1。残念ながら日本はそういうところへもまだ関われないでいる。アメリカも新しい形の空港民営化は遅れており、進出していません。オペレーターの業務内容はどういうことかというと、主として海外に出た場合には、空港運営が54%、ターミナルだけの運営が3%、それからターミナルを中心とした商業小売運営が13%、貨物の輸送などの空港ハンドリング運営が5%、それ以外に出資というのが26%となっています。

そういうオペレーターの中で、「国際的空港オペレーター」として海外で応札する資格を持っている、非常にランクの高い会社が1015社あります。しかもその中で5大オペレーターといわれるものがあります。それぞれ特徴があって、まず英国空港会社(BAA)は、空港での小売を徹底的に研究することによって、自ら開発した「エアモール」というコンセプトで、品質の高い小売業をすることによって、そこから収益を得て空港全体にその収益を還元させるというのが特色であります。二つ目のフランクフルト空港会社は、もともとグランドハンドリングという空港内の物流やサービスが売り物だったわけで、そのフランクフルトでの経験をもとに展開しています。パリ空港公団は、マスタープランやターミナル設計等ソフトの部門が非常に強いということで海外に進出しています。アムステルダム・スキポール空港会社は、小売業だけではなくて貨物施設運営やコンサルタントサービスなど幅広く事業をやっています。これら4社はいずれも本来空港経営会社で、それが海外に展開していったわけですが、次のTBIというのは、英国のもともとは不動産会社で、99年にアメリカの空港運営会社エアポート・グループ・インターナショナル(AGI)を買収して、それによって空港運営の専門家になって、この5大メジャーの中に入って来たという企業であります。

BAAが開発した「空港小売業」が一つの新しい重点になっております。新千歳空港を見せて頂いても、ある面、商業モールは大変魅力的なところもあるわけですが、それが空港全体の経営にどのように貢献したか。それが重要な問題です。その戦略がBAAにあるわけであります。BAAの場合には、「エアモール」という名称でコンセプトを築き上げて、しかも市中に比して空港での価格が決して特殊なものではなくて、初めの段階でもロンドンのダウンタウンでの値段と空港での値段を変えない。場合によっては、空港がもっとインセンティブを持つセールスをするとか、空港だからといって値段を上げない。しかも質の高いものを目指した「エアモール」という新しいジャンルを開発した。そのために、当初、空港会社でありながら商業小売やマーケティングのプロを百数十名採用したわけです。それによって、空港小売業を新しく展開して行った。その成果が空港全体の収益を上げることで、結果として航空会社を始め旅客に対するサービスも含めて空港利用者にコストを上げないで空港運営ができる形になって行ったのです。

9表10をご覧いただくと「航空収入」と「非航空収入」というのがあります。「航空収入」というのは、飛行機が空港を利用する事そのものに伴う着陸料等の収入ですが、「非航空収入」というのは、駐車場や商業機能であるとか、ターミナルのテナント料を含めて周辺の様々な関連事業等、そういう航空と直接的ではない収入です。表9で、例えば成田と関空をご覧頂くと、成田は航空収入が69%で非航空収入が31%、逆に言うと小売業のサービスの余地がまだあるのではないか。それに対して関空の方は全体的に苦戦はしていますが、航空収入が24%で、非航空収入が76%ということで、商業小売で頑張っている。ただし関空の場合は、先程の話しと違って値段が高いんです。それはさて置き、BAAやフランクフルト空港会社を見ると、70%前後の非航空収入を得ているのです。表10は、アメリカとヨーロッパの非航空収入を比べてあります。アメリカの場合は駐車場収入のウエイトが非常に高いのに対して、ヨーロッパは商業小売や不動産というのが高くなっています。

次に、「空港アドバイザー」についてです。先程触れましたが、投資銀行が空港民営化アドバイザーをしているのです。これは政府が民営化しようとする場合、政府に頼まれて政府のアドバイザーをやるわけです。それが投資銀行の役割であります。そこにはアドバイザーが、政府の政策目標やスケジュールや、いろいろな方式など様々なアドバイスをして、場合によっては資格の審査やそのための書類、そして最終的にはオペレーターと政府との間の契約書の作成までアドバイザーがやるのです。表11に、主要投資銀行の名前を挙げてありますが、結構いろいろなところの空港に関わっています。それによって新たな空港に関わる業務が出来ると同時に、更に投資銀行はアドバイザー業務を通して投融資など本業にまで展開できる。オペレーターを始め、コンソーシアムに投融資をするとか、本来の銀行業務もそういうチャンスを捉えて出来るというようなことであります。

ビジネスがこういう形で、空港を場に非常に魅力的になり始めたということで、他業種から空港オペレーターを始めとしていろいろな形で参入して来ております。表12を見て頂くと、建設業や他の交通業(バス、鉄道)や航空関連産業などが新しく参入して来ております。先程お話しした五大オペレーターのTBIも、不動産業から参入した典型的な成功例であります。

5.空港民営化の失敗例

そういう空港民営化の中でも、失敗した例もあります。詳しくは省略させて頂きますが、一つは、カナダのトロント空港で新たな第3旅客ターミナルを作って、それを民営化したわけです。これは特に小売業やタックス・フリーショップの配置を民営化した主体が間違えて、あまり巧く行かなかったということです。もう一つは、アルゼンチン国内の33の空港をトレードセールで民営化したわけですが、イタリアのミラノ空港会社が中心になってコンソーシアムを組んでやったのですが、ベラボウに高い権利料で落としたのです。その結果、空港に対する価値の判断を間違えた感じで、BAAの例と違って空港着陸料や利用料を上げざるを得なくなって、それが問題になったのです。

6.航空交通管制の商業化・民営化

最後に空港だけではなくて、この前ドイツで事故が起きてスイスの会社が問題になりましたが、航空の交通管制についても商業化や民営化がかなり進んでいます。商業化というのは、完全な民営化にはなっていなくて、公の責任者が居るのだけれども商業的な組織を使って実際に運用しているということで、スイスの場合などはそうです。完全に民営化しているのは、カナダのナヴカナダで、民間の会社が全部航空路を仕切っています。今後、イギリス、ドイツ、ポルトガル等で管制を全部民営化するという流れも出て来ようとしております。

■民営化の視点からみたわが国の空港経営問題

1.危機感が希薄な国土交通省の3国際空港民営化&統合構想−成田・関空・中部3国際空港の上下分離方式の導入

海外で進む民営化の視点からみて、わが国の空港経営問題はどうなんだろうか。一つは今、国土交通省航空局が、成田と関空と中部国際の三つを上下分離して、上物についてはそれぞれ民間会社にして民営化する(3社)。下の方は土地の造成、滑走路等基本施設の整備と所有については3空港一本にして、公的な法人でやるという、上下分離による、ある面では3空港統合の民営化かつ統合案があります。

これはマスコミの中でもいろいろ議論がありますが、私どもの検討から見ても、これは民営化ではない。これによって非常に具合の悪いことが起こるというふうに思っております。詳しくはレジメに幾つかの問題点を挙げましたが、私も運輸省の先輩の一人としては非常に心配をしております。これによって特殊法人改革には寧ろ逆行するだろうし、経営責任が非常に曖昧になるだろうし、成田のようなところが関空に足を引っ張られて、国際競争力を益々弱めて行くだろうと思っております。そういう問題点があるもので、決してこれは改革案ではないというふうに私は思っています。

2.わが国の空港の民営化の可能性−日本の主要空港も儲かるビジネスになる。

もう一つの点は、わが国の空港は本当に民営化できる可能性はあるのかということです。実は空港特別会計というのは地方空港も含めて全体がプールになっていますから、個別にどう投資をして、どれだけの収益があって、どれだけのコストを掛けているというような個別での収支が非常に見えにくくなっています。そのために我々が得られる外部からのデータというのは限られていますが、幾つかの点でアプローチをしています。

まず、簡単に言うと、BAAのアイリス社長が来られた時に彼とお話ししたのですが、BAAというのは商業モールを中心にして、非航空収入で稼いで全体に還元する(着陸料や利用料も抑える)ということですが、自分たちのイギリスや世界での経験から、年間200250万人位のお客さんがあれば、かなりやれるよと。それで見ると、日本の県庁所在地の主要な都市の空港というのは、大体そのレベルに達しているのです。「もし日本で空港の民営化をしたら、日本の市場はおいしいな」という感じを持っておられると私は感じました。

二つ目は、これも個別の独立型での企業会計的チェックがなされておりませんので、よく分かりませんが、行革推進事務局が航空局から20年間程度の収入と支出を主要空港について出させて、収入としては着陸料と空港ビル利益、支出は空港整備費として収支試算をした(これは企業会計的な収支試算ではないと考えられる)ということです。それで見ても、羽田は沖合展開等の投資が多くなっていて事情が少し違いますが、伊丹、新千歳、名古屋、福岡、那覇は収入が完全に支出を上回っているし、長崎、小松等5空港でも収入が支出を上回っている。

もう一つは、鞄結桴、工リサーチが全国37空港の第3セクター(ターミナルビル会社)の99年の決算データを公表していますが、一般の第3セクターは非常に営業成績が悪い中で、空港ターミナルについて言えば、33空港が税引き後の利益率が3.7%です。これは普通からすると非常に高い。しかも株主配当が非常に高くて、那覇では20%で、新千歳は10%です。売上高でいうと、新千歳は427億円でトップであります。税引き後の利益では名古屋が約12億円、その他の空港も1億円以上の利益がある。このような空港ビルの収益が空港と一体化して活用されることになれば、どういうふうになるかということです。かなりやれるのではないでしょうか。

それから、きょうはあまりデューティーフリー(Duty Free Shop)のことを言いませんでしたが、BAAやその他の例を見ても、小売の中でデューティーフリーのウエイトというのは、非常に高いのです。だから地方の空港も国際化が行われて、そういうものとドッキングして、商業小売が巧くいくと非常に魅力的なものになる。ただ、ヨーロッパではEUになって、多くの空港会社では従来あったデューティーフリーが無くなり、そのことは困っているようです。デューティーフリーを含めて、ショッピング機能を高めることによって収益を上げる。言ってみれば、ある程度の規模の空港というのは年間200万〜250万人以上の保証されたショッピングモールを内臓した装置なのです。もちろん普通のショッピングモールでのお客の行動と、空港での行動はかなり違うと言われていますけれども、いくつかの調査からみると、航空旅客の90%位は空港ビルで何か買いたいし、食べたい、要するに消費をするということです。BAAがアメリカで受けたピッツバーク空港では、かつて客単価が日本円で300円位だったのが、1,000円位になっているというのです。そういうことから日本人が行く所ではもっと消費単価が高いだろうと思います。そういう意味合いで、これはかなり魅力的ではないかと思うのです。

これらの諸点からからしますと、ショッピングモールを含めて、ある面ではこれからの空港産業というのは、規制を緩和して民営化するという意味は、それによって民の側が様々な知恵を出す余地が出て来る。しかもそれが空港とか航空ということに限らず、本日はあまり触れませんでしたが、周辺の用地の活用だとか、それに伴う様々な機能開発や事業展開をやっていくことによって、空港を核にした地域や都市の活性化が期待されます。つまり、一番初めに申し上げたITのシステムと航空システム、要するにアナログの情報システムだと申し上げましたが、そういう意識で周辺の都市的な開発とリンクさせることによって、新しいハード&ソフト面での事業の多角的な展開という可能性が非常にあるのではないか。人や物を輸送するという交通手段としてだけの空港よりも、枠を広げてそういうことに取り組んでいくことが、新しい世紀における地域のあり方に繋がっていく要素ではないかというふうに思います。そういう意味合いでは、日本の今の段階では、先程の3空港統合民営化案などにはとらわれることなく、もっと戦略的に、北海道が千歳空港を対象にされても良いと思いますが、アメリカのように民営化パイロットプラン(モデル)にチャレンジしてみる。その時に空港だけではなく地域全体としてどうあるべきかということを考え、取り組むことによって、新しいダイナミックな事業展開の動きというのが可能になるのではないかというふうに思います。