農業・食産業問題セミナー
21世紀、ヨーロッパ農業事情と
これからの北海道農業


北海道大学大学院農学研究科長、農学部長 太田原 高昭氏

 

はじめに

北海道大学は昨年、創基125周年を迎えました。125周年というのはサッポロビール≠ニ日本経済新聞≠ニ同じでありまして、この前サッポロビール≠フ今堀さんから「合同誕生会をやろう」ということでお招き頂きまして、産学共同の誕生会をやって頂いたわけでありますが、今日は産学官研究フォーラムということで、農業問題の話を致します。 
 最近、管理職に明け暮れておりまして、なかなか最近の農業情勢といっても少し疎くなっているわけでありますが、昨年、息抜きも兼ねてヨーロッパ5カ国ほど回って来まして、そこで日本農業、北海道農業の現状から見て、いろいろと感じる事がございましたので、その事についてこれから一時間ほどお話ししてみたいと思います。

 食料自給率170%の北海道農業

 まず、何故ヨーロッパなのかという事を前置き的に話しをしてみたいと思います。北海道の農業は、「日本農業は大変だ大変だ」と言われながら、北海道だけを見ると今、農水省が地域毎に自給率を出しておりますが、日本全体では40%という大変心細い状況でありますけれども、北海道だけをとると、実に170%です。170%というのはアメリカは勿論、世界一の自給率を誇るフランスも140%位ですから、これはそういう国を上回る大変な、文字通りの食糧基地であるという事になるわけでありますが、BSEの問題、雪印の問題と大変暗雲が漂っております。それでこの暗雲は、長期的、構造的でありまして、グローバル化という全体の動きの中で、北海道農業は果たして、もつのかというのが大方の心配で、私達も大変心配しております。我々は応用科学でありますから、「このままでは、もたない」と言い切って済むわけではありませんので、「どうすれば良いか」という事を常に考えなければいけないわけであります。

 21世紀のモデルはヨーロッパにある

 これまで言われて来たように、規模拡大、生産効率を上げるという方法はアメリカ主導の効率主義と言われているのでありますが、どうも、これまでそれでやって来たわけでありますが、それでは展望が開けない。特に規模の問題については、アメリカその他の国に圧倒的な差を付けられているわけであります。むしろ、これはもっと大きな話になりますけれども、農業問題だけではなくて、これからの一国の経済のあり方、或いは社会のあり方と言っても良いかも知れませんが、アメリカモデルよりもヨーロッパモデルになるであろうと、多くの人が指摘しております。

 これ(グラフ)は人口の推移でありますが、日本は高度成長が終わり、低成長だと。これから高度成長が有るのか無いのか、そんな議論がされておりますが、経済成長というのは人口に規制されるわけでありまして、人口が増え続けている内は、マーケットは拡大して右肩上がりになるわけでありますが、人口が停滞、減少というメガトレンドで言いますと、やはりこれから高度成長という事にはならない。高度成長という道を今後辿って行くのは中国であろうし、アメリカは他民族国家でありますから、白人社会は人口が減って来ているわけですが、国全体としてはまだまだ伸びていて、そこにアメリカ経済の底強さというものが有るわけであります。

 我々はそういう人口が伸び続ける国を追いかけると、これは必ず足元をすくわれる。そういう点に着目しますと、だいぶ前から人口の伸びがストップし、縮小して来ている西ヨーロッパ、これを成熟社会と見て、そこに今後日本がいろいろな意味でのモデルを考えて行くという思考法が必要になっているのではないかと思っております。農業という点についても、それは当てはまると私は思っておりまして、そういう意味でヨーロッパの農業を見てみますと、ウルグアイラウンド以来、日本でいろいろと農業と他産業を対立させるようなオピニオンリードがあったわけであり、そういう中で様々な論点が出されていましたが、そういうことをヨーロッパの側から見ると、随分違った発想で、随分違った解決策をしているという事を改めて感じているわけであります。そういう事をいろんな切り口から眺めて見て、これからの農業の政策だけではなくて、日本という社会の中における農業・農村の位置付けを改めて考え直す必要があるのではなか。そういうのが今日の問題意識であります。

1 BSE問題の深刻さ
 メニューからビーフが消えた

 かといって、別にヨーロッパを理想国にする必要はないわけでありまして、現に今、大変な問題になっておりますBSEはヨーロッパから始まったわけであります。日本で最初の牛が発見されたのは昨年の9月でしたが、その直前に私はヨーロッパを歩いていたものですから、あまりBSE問題の深刻さというのは感じていなかったのです。ところがヨーロッパのどの国に行っても、たまにレストランに入って牛肉を食べたいと思っても「ビーフ」というのが消えているんです。肉は全て鳥と豚という状況でありまして、改めて「これは大変な事態だな」と痛感致しました。「ひょっとして牛肉を安心して食べられるのは日本だけかな」と思って日本に帰って来たら、とたんにあの騒ぎであります。

動物福祉大国イギリスでなぜ?

 それで、ヨーロッパでもいろんな国の人と意見交換したのでありますが、イギリスから始まったというのが非常に教訓的であります。NHKにおられた中村さんも岩波文庫で書いておられますが、イギリスで狂牛病が発見されたけれども、原因を特定するのに随分時間が掛かった。それは肉骨粉という牛の肉骨粉を牛に食わせる、つまり、共食いという飼い方を、まさかイギリスの農家がしているというふうには考えなかった。これは盲点だったと言われております。

 イギリスというのは動物福祉大国でありまして、ペットを始め野生動物も、とにかく大事にします。私の友達が商社マンでイギリスに行って犬を飼おうと思ったら、日本人には売ってくれない。どうしてだと言ったら、「日本人は犬を虐待する」と言われたのだそうです。鯨は食べるし、犬は虐待すると。「そんなことはない」と反論したら、「その証拠に、日本人は国に帰る時に、皆、犬を置いて行く。それが野良犬になる」と。反論の余地はなかったそうです。それで、必ず犬は連れて帰りますという誓約書を書いて、ようやく犬を売って貰えたと言われておりましたが、そういう動物福祉大国であります。そういう所で、共食い的な飼い方をしていた。これは当のイギリスにとっても大ショックであったわけです

自由化、グローバル化の必然の産物

 それは何故なのか?これは結局、自由化、グローバル化が進むなかで、アメリカ・ニュージーランド・カナダという大規模低コストの国と競争して行くためには、飼料効率を上げるために、とにかく安く飼料を買うしかない。肉骨粉のエサとしての最大の魅力は、安いという事であります。これは元々廃棄物ですから、魚粉の半分の価格なのです。そういう物を使わざるを得ない。ですからそういう面では、アメリカは今のところ、このBSE問題は出ておりません。先ほどのアメリカ発のという事から言えば、このグローバル化のなかで経営規模、土地の制約という点で差を付けられている国においては、そういう対応を取らざるを得ない。そこに基本的な問題があると私達は思っております。

生産性向上・効率化農業の見直し→新ラウンド

 そうなりますと、安ければ良い、低コスト追求という効率主義農業のあり方というもの全般的に見直しをかけなければならないわけでありまして、これは次期ラウンドの大きな論点になって行くのは間違いないと思われます。

2 ノルウェーのデカップリング政策

 そういう問題を抱えているヨーロッパ農業でありますが、日本はずっと、農業大国と裸で競争するというような事を強いられて来て、そのために規模拡大だとか、いろいろな事を言われて来たわけであります。ですから日本でもBSEの発生原因というのは、先ほどのイギリスと同じような問題をはらんでいると思います。このままで行きますと大変な事になりそうなのでありますが、しかしヨーロッパ全体としては、そういう事に対する反省がかなり前からありました。BSE問題には間に合わなかったのですが・・・。大規模な新大陸の農業国家と裸で競争して、それに勝てるという事は、もう大分前に諦めていまして、別の政策原理でやっております。

それが「デカップリング政策」というもので、日本でも紹介されております。デカップリングというのは、要するに「所得」と「価格」を引き離すという事です。日本でも今まで「所得」と「価格」はくっ付いた政策を取って来たわけです。農業を維持するためには、農家の「所得」を上げなければならない。そのためには「価格」を上げなければならないという事で、価格政策で農業を保護するという事をやって来たわけであります。それが国際的にグローバル化のなかでは、「あまりにも高い」と消費者の反発を受けるという事で、今度は国際的にフラットにして行くという政策が取られているわけでありますが、そうなると大規模といっても北海道くらいの規模では、今度は農家が到底もたないという事で大変日本の悩みがあるわけであります。

 それをヨーロッパでは引き離すと。価格が幾ら下がっても所得は確保されるという政策をウルグアイラウンドの最中に採用したわけであります。それが「直接所得補償」と言われて、市場価格は変動するけれども、市場価格で賄えない部分を直接農家に補償するという政策であります。私達も、日本もそうなれば良いなと大分前から思っておりまして、いろいろ勉強もし、ヨーロッパではこういう政策が取られているぞという発言もして来たのでありますが、今回、ノルウェーのスカンディナビア山脈という真に限界地的な所を鉄道で旅行する機会がありまして、その効果というものを非常に痛感して参りました。

 スカンディナビア山脈のアルペン農業

 このスカンディナビア山地は、アルプスも素晴らしいけれども、もっと原始的で氷河の直ぐ側を鉄道が通っているという、夏に行くと大変素晴らしい所であります。そういう所にあちこちに農家があるわけです。それで見てみますと、どう見ても大体、乳牛が10頭くらい。そして大変な傾斜地に10haあるかないかという、そのくらいの規模です。家だけは立派なものですから、最初は金持ちの別荘かと思っていたのですが、傾斜の緩い所には牛がいて、その上の方には羊がいて、羊も上れないような所にはヤギがいるという、そういう農家なのです。

 それにしても、この十数頭という、こんな規模でちゃんとやっているんだろうかという事で、向こうの学者の人に聞いてみたのですが、「あれは直接所得補償政策を取っている」という事でした。この直接所得補償政策はEUの共通農業政策でありまして、実はノルウェーというのはご存知のように、国民投票で何パーセントか足りなくてEUに加盟しなかったのです。そういう所では、このデカップリングは、どうなっているのだろうというのが私の問題意識だったのですが、「それはちゃんとやっている。しかもEUの共通政策に縛られていないから、EU以上の手当てをしている」と、胸を張っていました。どうもノルウェーというのは北海油田があって、産油国で財政が非常に良いのです。それで特にアルペン農業への所得補償には力を入れているんだと。

 最近このスカンディナビア山地はNHKでもトレッキングの特集をやっておりましたけれども、アルプスと観光客の奪い合いでありまして、鉄道の中にもパックの旅行者がたくさんいたのですけれども、そういう人達をたくさん呼ぶために、景観として農家がないとダメだという事で、そのためにも直接所得補償政策は国民的合意を得ていると胸を張っていました。

 北欧で特に強い「身土不二」

 そして、北欧というのは非常に面白いなと思ったのですが、単に観光目的だけで農業を存続させるという事ではなくて、我々は韓国の「身土不二」という事をよく聞かされているのですけれども、「身体と土地は一体である。だから自分の土地で取れた物を食べるのが一番身体に良い」という思想があって、これはアジア特有の思想かなと思っていたら、ノルウェーに行くと、その「身土不二」のような事を盛んに言うわけです。

 それで聞いてみると、ノルウェーに限らず北欧の人達は、背が高くて、目が大きくて、金髪で、白人の中でも最も白人らしい人達、そしてバイキングの子孫であることに非常に誇りを持っています。それで、そういう民族的特質を維持するためには、とにかく北欧で取れた物を食べなければならないという事を、医者や保健婦さん達が非常に言うらしいです。

 こういう考え方を突き詰めて行くと、ナチズムにも通じて、ちょっと怖いなという気もしたのですが、そういう意味ではなくて、それが食料自給率を少しでも高める、というところに政策的には行くわけです。そのために直接所得補償で国内の農業を守ると。ああいう所ですから、100%の自給率というのは、とても無理なのですが、聞いてみたら70%はちゃんと自給しているのです。これは大変素晴らしいと思いました。

 直接所得補償への国民的合意

 ノルウェーではデカップリング政策で大変感激致しましたが、日本はこの政策を取っていないわけですから、国際化、自由化の進展がそのまま価格低落につながり、所得マイナスに直結するという状態が改善されておりません。やはり、ここのところをヨーロッパに学んで、所得補償政策の方に大きく舵を切り替える必要があると思います。日本ではウルグアイラウンドで価格がガッと下がったわけですが、ヨーロッパでも同じなのです。 

 例えばドイツで言えば、小麦が市場価格は3割ほど下がっています。しかし、その下がった分を国が直接所得補償しているわけです。ですから市場価格が下がっても、農家は以前と同じ所得が基本的に補償される。消費者は価格が下がって喜んでいる。完全に国民的合意が成り立っているのです。財源はどうするのかと言うと、結局、前に輸出補助金だとか(日本で言えば食管)で使っていたお金を、そのまま所得補償に回せば良いだけですから、言われるように膨大な財源が掛かるわけではないのです。この切り替えが何故日本で出来ないのか。そういう事を改めて思いました。

 そのデカップリング政策は中々幅の広い政策で、まだまだ付け加えなければならない事があるのですが、こういう直接所得補償をするのに、ドイツでもフランスでも条件が付いています。ただ従来型の農業をそのままやっていて、所得補償をするという事にはなりません。これは、以前のEUの農業というのは、輸出国ですからアメリカやカナダに対抗して生産力を上げるために、化学肥料や農薬をドカンと使う農業だったわけです。そういうものを丸ごと補償するものではないんだと。国と農家が契約をするわけです。その契約の内容は「環境保全型農業」であることです。環境保全というのは、「景観」という面と、「有機農業」という農産物の質の面があり、その両面から政府の定義に従った環境保全型農業を実行するという契約をした農家に対して直接補償が出るわけであります。

3 ドイツの有機農業

 ドイツの農村風景のすばらしさ

 ドイツの国を歩くと、誰もが「素晴らしい景観だ。特に農村風景が素晴らしい」と言うのでありますが、これは昔からそうだったわけではありません。観光で有名なロマンチック街道ですが、街道自体はローマ時代からあるのですが、今あるような整備された街道、及び周辺の田園風景というのは、だいたい70年代から修復に努めて、どうやら観光客を集めて見れるようになったのは、ここ10年だと言うのです。

 日本でもようやく最近曲りくねった川に戻すという様な事を開発局がやるようになりましたが、ドイツでは20年前からそういう事をやっています。何しろ農業だけではなくて、いろいろな面で環境保全、景観創造というのが第一価値になっております。農業について言えば、アメリカと張り合って「増産、増産」と言っていたのは70年代までの話でありまして、最近は「食料自給率は100%で良いんだ」という考え方になって来ております。つまり、「国内市場向けで良い、外国まで輸出する必要はない」と。しかし、実際に輸出を目的とした大農場とか貿易商社などがありますから、簡単に切り替えることは難しいのですが、理念としてはそうなって来ているのです。ですから国民に安全、安心の食料を、高い自給率で供給し、その農業を通じて環境保全、農村景観の創造をするというふうに大転換するのであるというのが向こうの人の説明であります。

 これはヨーロッパでも前からそうだったのではなくて、1970年代までは日本と同じ様な政策を取っておりましたが、そのつけがいろいろな公害問題という事で大変深刻化したわけであります。もちろんこれは農業だけではなくて、工業の方が原因として大きかったわけですが、日本と違うのは、日本は水田農業が中心ですから、水や国土保全という面で、農業は環境に優しい産業であるというふうに国民に思ってもらっているという面があるのですが、ヨーロッパのような畑作農業では、ハッキリ農業は環境問題に対する加害者という告発をされていたわけです。そのことに対する反省がありまして、農業の有り方そのものを根本から理念的に転換せざるを得なかった。そういう時代を経て、日本より20年くらい前に大きく舵を切っているという事であります。

 その結果として、ロマンチック街道に代表されるような素晴らしい農村景観というものが出来ているのでありますが、北海道でも遅ればせながら、開発局が事務局になりまして、「我が村は美しく」という農村景観のコンテストをやろうという運動を今年からスタートさせまして、私もそのお手伝いをしております。そういう、農業、農村への新たな期待というものが日本でも出て来ているというのは、大変良いなと思っておりますが、ヨーロッパで基となっている農業政策理念の位置付けの大転換というのが、日本にはまだ無いわけです。無いまま、こういう形だけ真似して大丈夫なのかなという危惧を持ちながら、しかしこの運動自体は大変良いことなので、お手伝いしているという事であります。

 シュツットガルト(アウグスブルグ)の小規模酪農協

 ドイツでは今、景観を中心に申し上げましたけれども、生産物の質の方ですが、オーガニック農業(日本では有機農業)を国が勧めております。私達は、アウグスブルグの有機酪農協同組合という所を見に行きました。今、日本では農協合併がどんどん進んでいまして、北海道でも大農協が出来ましたし、府県に行きますと、組合員1万人とか3万人とか、一県一農協というのが出ているのでありますが、ヨーロッパも同じです。デンマークは一国一農協になりました。それだけではなくて、今回行った時に、更にビックリした事には、デンマークはスウェーデンの酪農協と合併して、国境を跨いだ二国一農協という、変なことになっております。

 EUで国境がなくなるわけですから、それとネスレなどの大乳業資本との競争がありまして、向こうの協同組合は日本のような総合農協ではなくて、加工を中心にした工場でありますから、工場を協同で持つという形で、これはもろにスケールメリットの世界でありまして、資本と競争するために大型化が進むという事が伴うわけであります。

 ビオショップと流通システム

 私達はそういう面に目が行っていたのですが、一方では、アウグスブルグの酪農協などは200戸くらいの農協でありまして、組織範囲は小さな村の農協というのではなくて、有機農業として認定されている人達だけの農協でありますから、相当、広範囲であります。

 その中で200戸くらいの有機農業を営んでいる人達が、協同で工場を作って、そこから出る牛乳、ヨーグルトなどの乳製品は「ビオショップ」という、ちょっとした町には必ずあるオーガニックの流通ネットワークなのですが、そういう所で普通の乳製品の倍から3倍くらいの値段で売られております。

 それがきちんとネットワークとして確立しておりまして、日本では「有機」と称しているけれども本物かどうか分からないという不信感が消費者の方にあるわけですが、ドイツは完全にその段階は卒業しております。「ビオショップ」で売っている物は間違いないと。したがって消費者は「ビオショップ」で買う物と一般のスーパーで買う物と仕分けして、その住み分けが既に成立しております。

 ドイツ政府の有機農産物政策

 それで、ドイツで輸入も含めて有機農産物がどのくらいの割合になるか聞いてみたら、たぶん5%くらいには達していると。これでも日本は、1%にもまだ遠い数字でありまして、定義自体が動揺しているという、この世界では深刻な状況なのですけれども、それから見たら5%でも大変なものであります。ドイツでは、これを2020年までに20%に持って行くと政府が公約しております。

 こういうものがデカップリング政策で堅実に守られているし、オーガニック農業認定農家というのも訪ねてみたのですが、大変前途に展望を持って頑張っております。「政府が約束してくれているので、これからどんどん仲間を増やして行こうと思っている」という事が、農家レベルでも農協レベルでも聞かれました。日本から見たら、相当進んだ段階であります。

 最近日本でも、消費者からの要望も非常に強いし、生産者でも若い人でこれから専業農家で取り組もうという人は、殆ど例外なしにオーガニック農業をやりたがると言って良いくらい意識が非常に高いです。但し、そういう物を差別化商品として特定化してマーケットに売って行く能力が、まだ農協の方に備わってなくて、そこから農協離れという事が起きていくわけです。そういう意味では、まだまだ初歩的状況に日本はあるんだなという事を改めて見せ付けられた思いであります。

4 イタリアのパルメザンチーズ

 パルマ地方のチーズ農協

 それから、イタリアにも行きました。私達が訪ねたのはパルマという、サッカーの中田選手が行っている町です。これが中世の町並みを残した素敵な町であります。パルメザンチーズというのは、実はこのパルマ地方のチーズであるという意味なのです。日本ではパルメザンチーズというと、スパゲッティを食べるときに掛ける粉チーズを、パルメザンチーズだと思っていますが、あれをパルメザンチーズというのは、明らかに不当表示であります。私達も日本に帰って来てから、粉チーズを見ると、オランダ産だとか書いてあって、オランダ産のパルメザンチーズなんていうのは有り得ないのでありますから、あれは粉チーズで良いと思います。

 本物のパルメザンチーズというのは、なかなかのブランド商品なのです。これは、パルメザン地方の牛から絞った牛乳というふうに、定義がしっかりしておりまして、その牛も独特の赤牛というのがいますが、それでなければ駄目だという事になっていて、しかしこれは乳量が少ないので、最近は規制緩和されてホルスタインでも、パルマ地方の農家の牛であれば良いという事ですが、それでも量が足りなくて、ドイツからどんどん毎日タンクローリーがイタリアに走っていて、パルマ地方の工場で作って、それをパルメザンとして売っているのですけれど、これは地元の農家から見れば、当然偽物でありまして、そこのところを非常に厳しくブランドで差別化しております。

 ほんものパルメザンチーズの威力

 当然、このパルメザンチーズというのは、非常に高い物でありまして、私達が訪ねたパルメザンチーズを作る農協は、組合員が僅か30人です。話を聞いたときは、30人の組合員で農協が成り立つのだろうかと思ったのですが、作り方が600年前の作り方そのままだと言っていました。だからこそ価値があるのであって、これは大変高値で取引されている様であります。したがって30戸の酪農家から牛乳を運んでくれば、ほぼ一杯になるという事で、それ以上組合員を増やすわけにはいかないんだという説明が納得できました。

 その農協の仕組みたいなものを聞いて見ますと、北海道の農協なんかと比べてみるとビックリするのですが、その農協で働いている職員は、チーズを作っている熟練工が56人いまして、それだけなのです。それで、管理や給料の支払いや販売はどうしているのかといったら、その上に連合会があって、それらは全て連合会の仕事なのです。こういう小さな農協がたくさんあって、連合会の人は一人で6つか7つ、そのような農協を持っているのです。そして農協だけではなくて、生協や漁協も同じ系統の中に入っていて、説明に来てくれた方は、生協2つと農協5つ持っていると言っていました。そして一週間に一回くらい回って来て、必要な事務だけを取って帰るわけです。それで、役員はどうなっているのかと言ったら、完全ボランティアです。組合長と理事が30人の内、5人で理事会を作っているのですが、無給です。会議は毎週一回、夜9時に集まるのだそうです。それで必要な事を全部決めて、10時半頃終わって、後はワインを飲むんだという様な事を言っていました。「そんな無給で成り手がいるんですか」と言ったら、これが結構成り手が多くて、毎回選挙で選んでいると。やはり、誇りであると同時に、皆のために頑張るんだというボランティア精神です。これでいうと、日本の農協はいろいろ考えなければいけないなと思いました。コストの面からいっても、組合員のボランティア精神という面からいっても学ぶ事がたくさんあるなと思いました。

 農業を守るのは消費者である

 結局、この超小規模の農協が成り立っているのは、(小規模といっても農家は大変大規模で立派です)国民も政府も、食べ物に関しては、きちっとした本物を真面目に作っていれば、それは必要な価格で買い取って、大事にするという事を文化として持っているわけです。それまで、北欧やドイツで見て来ましたが、「なるほど、ヨーロッパに普遍的な食文化というのは、そういう事なのか」と思いました。自分達の文化を保全しようという事なのです。それが制度や秩序になっているのではなくて、自然と消費者はイタリアの昔からの食べ物を非常に誇りにしているわけです。だからどんなに高くても、納得してお金を払って買っているわけです。

 ミラノから撤退したマクドナルド

 そういう事を逆の面から証明しているのは、有名な話なのですけれども、マクドナルドという世界企業が、イタリアにだけは、どうしても上陸できないという話があって、それをイタリアの人は非常に自慢げに話してくれました。

 イタリアというのは、古代ローマ以来の食文化というのを非常に誇りにしているのです。アメリカのハンバーグなんていうのは人間の食べる物じゃないと皆思っているわけです。それで、マクドナルドも威信をかけて、ミラノのような大都市なら、いろいろな人がいるから成り立つだろうという事で、腕利きの店長や技術長を張り付けて3年頑張ったけれども、遂にこの前撤退したという事を、非常に誇らしげに話していました。これはやはり迫力がありました。その後、日経新聞を見たら、マクドナルドがまたイタリアで再開したと載っていましたので、まだまだ戦いは続いているようなのでありますが。

 農業を守るのは消費者である

 やはり、こういうのを見ていますと、農業を守るのは究極的には消費者なんだなと。価値を認めて、こういう食料を手に入れるためには、これだけの負担をしなければならないという消費者が、どれだけ育っているかという事が、その国の運命を決めるのではないかという事を改めて、つくづくと思い知らされたわけであります。そういう意味では、日本で農業を守っているのは、まだまだ農業団体であり政治家であります。国際環境が厳しいとかいろいろありますけれども、最大の条件は消費者の歴史的成長というものが不足しているなと。

 しかしヨーロッパでも、こういう消費者の意識というのは、第一次世界大戦以降だそうです。それまでは、ヨーロッパといえども、食うだけで精一杯という、飢餓もありいろいろな問題があって、そういう事を乗り越えて来るなかで意識として定着したと申しましょうか、文化として育ったという事なんだろうと思います。そういう事から見ると、日本はようやく、そういう意識が育とうとしているのが、高度成長が終わった後辺りからかなと。そうすると、わずか30年くらいしか無いわけですが、その割には日本の消費者の成長というのは早いのではないかとも考えられます。ですから、見る見るうちに予想外の成長を遂げるという事が、日本の消費者にはありそうでありまして、そういう点では所詮我々はヨーロッパとは意識が違うというふうに諦める必要はないのかなと思っておりますが、この辺はいろいろな議論をしてみると面白いのかも知れません。

5 産業クラスターの考え方とそのモデル

 人口500万人の独立国とその経済的基盤

 今までの食べ物の話と少し違うのですが、ヨーロッパでの農業、林業や漁業を含めて、第一次産業の位置付けという事で、北海道経済界の人にはお馴染みの言葉になりましたが、「産業クラスター」という考え方について、付け加えてお話してみます。これは北海道経済連合会の戸田会長が先頭になりまして、北海道自立論という事を10年くらい前からいろいろ研究なさっているわけです。日本では、農業と他産業を戦わせるような議論ばかり行われて来たわけですが、ヨーロッパはそうでないよという事を話して来たわけでありますが、その点、北海道の経済界というのは「食糧基地北海道」の経済界だけに、そこの切り替えが非常に早かったのではないかなと私は思っております。戸田さんを始め、道経連の問題意識は、北海道の自立。自立といってもいろいろありますが、開発予算が切れたら、もう駄目だという情けない状態から、どう脱却するかという事だと思うのですけれども、これはやはりヨーロッパに着眼しているわけです。ヨーロッパに行けば、人口500万人くらいで自立どころか、立派な独立国がいっぱいあるじゃないかと。そういうところは、一体どのような経済構造になっているのか研究しようという着眼が、道経連の研究グループの優れたところだと思っております。

 500万人というと、フィンランド、デンマーク、オランダ、アイルランドはイギリス領の北アイルランドを含めると、面積も殆ど北海道と同じであります。ノルウェーは少し少ないですが。そのような一等国がたくさんあるわけです。そういう所を回ってみての結論は、歴史的な順序からいって当然といえば当然なのですが、国内の農林漁業をしっかり基礎産業として位置付けて、農林漁業から派生した関連産業を、下手に国際分業しないで国内で育てて、農耕両全の政策を取って来た結果であるというのが結論であります。

 したがって、我々北海道の農林漁業をもっと大事にしようという事になって、我々から見ると大変有り難い事なのですが。これは同時に経済界の自己批判でもあるわけです。もともと北海道の農林業から派生した企業は、雪印にしても、サッポロビールにしてもたくさんあるわけです。だけれど本社が皆、向こうに行ってしまった。北海道から見れば、本社機能を手放してしまったわけです。その結果と言えば短絡的かも知れませんが、生産者の魂を忘れて、利潤追求に走ってしまったという企業も見えるわけです。北海道に本社を置けば解決するというわけではありませんが、理念としては、その地で企業として成長して行くということだと思うのです。

 林業労働の現場から生まれたノキアの携帯電話

 その一番良い例が、戸田さんから話を聞いて、なるほどと思ったのですが、携帯電話で世界トップ企業のノキアです。なぜフィンランドのような国から、そのような企業が生まれたのか調べてみますと、フィンランドというのは林業国ですから、林業というのはお互い山の中で、見えずに連絡を取らなければなりません。そういう無線通信から発達して、携帯電話まで行ったわけです。そういうタイプの企業が、人口500万の独立国にはたくさんある。

 デンマークもそうです。北海道で牧草作業機を買っても、皆デンマーク製です。デンマークというのは、そういう酪農関連産業の農業機械、装置、産業を、きちんと国内で世界企業に育てているわけです。最近の例でいうと、風車です。日本でも風力発電というのが大ブームになって、あちこちに大型風車が立っていますが、あの風車のハードは皆デンマークから輸入しているのです。これは、デンマークの酪農家が非常に電気を使うわけですが、その酪農家がなるべく電気を使わないために、糞尿を発酵した培養発電と、風力発電を奨励したわけです。