
講 師:北海道大学大学院法学部教授 宮脇 淳氏
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はじめに まず、自治体の電子化、政府化といった問題がどのような方向性に向いて行くのか、あるいはどういう戦略を持って行なわれるのかといったことを、簡単に整理させて頂きたいと思います。そして、そういった方向性の上に立って、具体的に電子政府化をする場合の戦略として、どういった内容というのを持っているのか、あるいは具体的にどういったところから入ろうとして行くのか、あるいはご承知のように今回の行政改革の中で、私ども国立大学、郵政省等の郵便事業、こういうものについても大きな見直しというのが、今、議論されています。こういった行政セクターの見直しというものを通じて、やはり電子化というものが非常に大きな影響をもたらしてくると言えるわけです。この辺についても、この電子政府化の戦略のところでご説明したいと思います。最後に “PPP”ということを取り上げています。この“PPP”というのは、public private partnershipそれぞれの頭文字を取って“PPP”と言われるものです。ご承知のようにわが国の行政改革は、イギリスの“NPM”(new public management theory)、日本語では“新公共経理論”と言うのですが、「行政セクターに出来るだけ民間的な経営手法を導入しましょう」というような理念の中で、現在進められています。これは官から民へといった形の中で「民間セクターの活動領域を拡大して行きましょう」ということですが、この努力をして来たイギリスは更に次のステップに入っていて、それがこの“PPP”と言われるものです。この“PPP”に対するブレア政権の検証というのが行なわれて、新しい官民関係の在り方という様なことが、今、整理され始めています。現在、わが国においては官から民へという形の中で議論が進んでいるわけですが、更に次のステップとしては、この“PPP”という形での構造というものが出て来ます。この中で、電子政府化とか、あるいはいろいろな行政サービスの在り方というものをどういうふうに形成して行くのか、あるいは“PFI”といった様な仕組みというのは、どういう位置付けになるのかという様なことを全体として整理して行きたいというのが今日の趣旨です。 T.グローバル化政策の背景 1)戦後50年の成長要因の終焉 ご承知のように今回のIT化というのも、「わが国におけるグローバル化を進めて行くための一つの政策である」というようなことが言えます。それでは、グローバル化政策というものを、小泉政権が経済財政政策において極めて大きな位置付けを与えているという理由は何なのかということですが、これは3点挙げています。@右肩上がり経済の終焉(名目所得の恒常的増加は困難)A閉鎖的金融市場の終焉(金融改革の最終的影響は行政に)B情報の寡占構造の終焉(情報配分による差別化は限界)。これまで50年間に渡る成長要因というのが、いずれも終わりを告げて来たのです。その成長要因というのは何かということを挙げてみると、この3点になります。右肩上がり経済が終わったということは説明するまでもないですし、今後、人口等においても減少局面を迎えるという様になって来ると、当然のことですが、今までの経済だけではなくて行政の仕組みというのも変えて行かざるを得ないというのが、まず第1点として挙げられます。ただ、もっと大きな問題、あるいは電子化・情報化という事と密接に関係している問題というのは、AとBの部分が特に大きいと考えられているわけです。それはAの閉鎖的な金融市場が終わったという事にあります。これは、やや分かりづらい表現ですが、ご承知のように昨今、金融改革というのがどんどん進んで行っているのですが、ところがこの金融改革というのは、最終的には行政に大きな影響を与えるという構造になっています。今までのような閉鎖的な金融市場を前提とした財政の仕組みではなくて、グローバル化された金融市場の中に対応して行ける財政の仕組みというものが、どうしても必要になって来るという様なことを意味しています。これはどういう事かと言うと、例えば地方自治体においても地方債の市場化というものがこれから極めて強く求められて来ます。ところがこの市場化に対して、きちんと信用力を確保して行けるような、あるいは情報をきちんと提供して行ける様な地方自治体の体制になっていないという問題もあります。また一方で、来年の4月からペイオフということも動き出すわけですが、このペイオフに対して、財政資金をきちんと管理して行けるような体制になっていないという事もあります。いずれもこういうところはBに書いてある、情報の寡占構造の中で行政が活動して来たことによる一つの結果ということが言えると思います。したがって金融改革が進むということは、当然、これは情報の寡占構造、並びにその流れというものを変えて行くことでありまして、よく言われる情報共有だけではなくて、こうした寡占構造を克服して行く中でIT化というのが非常に大きな役割を果たすという事が言えるわけです。 2)グローバル化の進展とデフレ圧力(過去の改革期との違い) このような金融市場を中心とする、あるいは情報というもののグローバル化というものが進んで行くわけですが、ここで若干、「そもそも論」の方に戻らせてもらいます。「グローバル化というのは一体何なのか」という点です。ここに 「グローバル化と国際化の違い」ということを挙げさせてもらっています。国際化というのはインターナショナルなので、これは国家の枠組みを前提とした国家間の問題を解決して行くという事が大きな定義付けとなります。これに対してグローバル化ですが、これは国家の枠組みを超えた経済資源の移動を出来るだけ活発化させるところに意味があるわけです。したがって国際化とグローバル化の間の違いというのは、端的に言いますと、国家の枠組みというものを維持するか、それとも国家の枠組みというものを出来るだけ低くして、取り払って行く方向に努力して行くかというところにあります。今日、わが国が政策的に取り組んで行こうとするのが、正に、グローバル化です。このグローバル化というものへの対策として、規制緩和やIT化という取り組みがあります。 このグローバル化というものが大きく進んできた背景というのは一体何があるのかということについて考えてみると、大きく分けて2点あります。1点目は、ご承知のように冷戦構造が終わったことによるアメリカの資源力の圧倒的な顕在化ということが言えるわけです。これは技術力、あるいは資金力といった様なことについても、アメリカにおける力というのものが国際経済の中で圧倒的な力を持ち始めることの、その大きなキッカケとなった点は、冷戦構造の終焉ということがあるというのはご承知の通りです。したがって、先程グローバル化というのは、国家の枠組みを取り払って行く事だというふうに整理しましたが、当然その場合、アメリカの国家の枠組みは極めて強い形で残ります。しかし、他の国の国家の枠組みは低くなって行くということでありまして、今日のグローバル化というのはアメリカンスタンダードというように、アメリカの枠組みというものは強く残ると言われるわけです。それに対してもう1つ大きなグローバル化の問題というのをわが国は抱えているのです。それが 「中国を中心とするアジアからのデフレ圧力の増大」です。これまで必ずしも、アジアからのデフレ圧力というものを大きく受け止めるという政策ではなかったわけですが、ここに来て、やはり日本政府としても単なる価格の面からのデフレ圧力だけではなくて、質の面からいってもわが国における競争力に、かなりの陰りが生じて来ているという事が言えると思います。したがってそういった面から、この中国を中心としたアジアからのデフレ圧力というものに、どの様に対応して行くのかということがアメリカの資源力の顕在化という事と並んで、わが国のグローバル化の大きな問題として捉える事が出来るということです。 3)グローバル化とローカルスタンダード こういう事を踏まえて、それではグローバル化と地方というのは、どのように整理をして行くことが出来るのかということです。結論から言うと、グローバル化という波が強くなればなるほど、ローカルスタンダードというものをきちんと形成して行くことが必要になって来ると思います。グローバル化が進んで行けば行くほど、あるいはグローバル化への対応を進めて行けば行くほど、どうしても効率化、投資効率というものを求めて行くのです。その流れが強くなって、国家の枠組みさえも取り払おうとする大きな流れの中では、北海道も含めた地域を、きちんと確立させて行くということは極めて難しいという問題点が出て来るわけです。そういった流れの中では効率性だけで論じるのではなくて、ある程度の地域の価値観というものを形成して行くという事が必要になって、それが、やはりローカルスタンダードというような問題だと思います。なぜこのようなところを、時間を割いて紹介するかと言うと、地方自治体の電子政府化ということを考える場合に、地方自治体というものが、どういう単位で残り得るのかという問題が当然出て来るわけです。私が何故そう言うかというと、地方自治体の地域における概念としては、ここに3つ書いていますが、正に1つは、「行政学における地域の概念」であるという事が言えます。更にその下に「経済学及び社会学における地域の概念」ということを書いていますが、経済学における地域の概念というのは、地域おける経済的な所得、経済活動によるものの地域の概念です。そして「社会学における地域概念」というのは、正に地域のコミュニティーにおける概念ということが言えるわけです。こういったものが残れるという事と、地方自治体という、いわゆる行政組織としての地域の概念が残るという事とは別問題ということが言えるわけです。 4)地域概念と地域政策の概念 そこで今日の地方自治体というものは、ご承知のように市町村合併等の議論がされているわけですが、そうした議論がされている中において、この行政学における行政機関としての地方自治体という存在と、地域の価値観を形成する経済学、あるいは社会学としての地域の概念というものを、どのように関連付けて行くのかという問題は非常に大きな問題であると言えます。したがって市町村において、この電子政府化への取り組みをして行く場合でも、市町村が今後2年間位でどういう状況になるかということは、今の段階では殆ど見えないというのが現状です。したがって単に地方自治体の単位の中で電子政府化をして行くことが、地域における投資として極めて有効性を持つものなのかどうなのかという問題も、当然これは視野の中に入れて行かなければならない事だと思います。と言うのは、おそらく市町村合併は今後2年間位のところで、極めて強く推進されることになると思うからです。ご承知の方もたくさんいらっしゃるかと思いますが、道内の市町村では今年度、財政的に1億円から2億円の交付税の削減というものを受けているところは、もう平均値です。これの善し悪しの議論は当然あろうかと思いますが、地方自治体を維持するということになると、「財政面での問題」ということと、それから「地域に対する貢献」ということとの2つの軸というのが両立しなければ、先ほども言ったように行政学における地方自治体というものを維持することが出来ないわけです。現状において、この財政危機という面からの絞り込みというのは、非常に強く効いて来ているという事が言えるかと思います。 正直言って、ここにどうやって電子政府化というビジネスを落とし込んで行くかという事について考えてみると、ローカルスタンダード的な価値形成をきちんと出来るような電子政府化の仕組みというものを作って行くという方向で考えていかないと、おそらく市町村合併という不安定な環境におかれている自治体は、積極的に投資をしていくというインセンティブにおいては、必ずしも十分存在しているという状況にはないというのが現状だと思います。道内の中でも積極的に、「この市町村合併の中で競争関係を作って行って生き残って行くんだ」という前向きな考え方を持っているところは別だと思います。しかし大体の自治体においては、まだまだそういった意識というのが十分に育っていないのです。そういう中でこの電子政府化というものを通じて、その地域の戦略ということを踏まえたり、あるいは地域の戦略というものを視野に入れたりして、どういう提案がされて行くのかということが極めて大きな課題として挙げられるだろうと思います。これは細かい話になって大変恐縮ですが、現在引かれている総務省からの市町村合併のツールで行きますと、来年度中に市町村合併に向けた一定の手続きに入って行かないと、特例措置を受ける事が出来なくなるというタイムリミットに入って来ています。そのタイムリミットが来年(2002年)なのです。したがって道庁でもおそらくそういった面で、市町村合併に対する指導というか、そういったものを強めて行くでしょうし、総務省でも当然これは強めて行くという環境にあると思います。勿論そういったやり方での市町村合併の是非の議論というのは、当然これからして行かなければなりません。ただ、わが国の財政的な圧力、小泉政権における圧力は、その是非を議論している時間的な余裕を与えない中で、今、大きく流れて来ているというのが現状だと思います。この電子政府化という議論の中でも、単に情報化をして行くというだけではなくて、その地域戦略の一つとして電子政府化というものをどのように捉えて行くのか、あるいは提案して行けるのかといったところも極めて大きな課題ですし、そのことによってローカルスタンダードを形成して行くことが出来るのだろうと思います。 5)国内外における資源アロケーションの変革 今日、都道府県だけではなくて市町村にも求められていることは、正に資源アロケーションの変革ということです。これは、資金・情報・人材・時間等の配分を変えて行くということです。この配分を変えて行くツールとして、IT化なり、電子政府化というものが極めて大きな役割を果たすという事だと思います。電子政府化というものが、日本で効率化という面における大きな役割を果たすということは勿論あろうかと思いますが、この本質的な問題点としては、やはり資源アロケーションの変革という事に、どのように視して行くのかという事だと思います。これは後ほどご報告しますが、行政組織の内部の問題であると同時に、官と民との問題や、官と住民との問題の中で、どのような役割というものの配分のやり方を変えて行けるのかという問題ではないかと思います。そのアロケーションを変えて行く一つのツールとして、IT化というのがあります。それではIT化によって何を本質的に変えて行く必要性があるのかというと、それは測定ルールというのを変えて行くという事であります。今までの市町村における意思決定とか、あるいは行動決定といった様なものの物差を、IT化によって変えて行ってあげるという事が極めて大きな課題になって来ると思います。これは国の方でもこれから行おうとしていますが、行政活動の工程別分析を行うという段階に入って来ております。民間企業では工程別の原価計算等を行うというのは当たり前のことですが、行政機関では工程別の分析というのは今まで殆ど行われて来ていないわけです。したがって行政サービス等の提供の仕方や、あるいは評価といったものを変えて行こうとすると、必ず、今回の小泉政権でも起こっているように、組織全体を官から民へ移行して行くとか、あるいは組織全体の予算額を削減して行くというやり方になってしまいます。 しかしそれでは物事の本質は中々変わらないのです。行政の行っている作業の工程別の分析を行っていって、どこを変えていくかという事によって、サービスのコストと質が良くなるのかという事を整理していくことが必要です。この工程別分析のことは、別の言葉で言うと、よくABC分析という言葉で表現されることがあると思います。結局、この工程別の分析を行うことによって行政サービスの在り方なり、効率化を進めて行くその大きな本質というのは、「測定ルールを変えましょう」ということです。この測定ルールを変えるということは、もちろんグローバル化の中で国全体として行うべき課題であるわけですが、一方ではローカルスタンダードを形成して行くためには、地域毎でこの測定ルールというものを形成して行かなければなりません。ですから北海道スタンダード的なものが常に言われるというのはこの点にあろうかと思います。もし、そういうものがきちんと形成されないという事になると、当然グローバル化の中で北海道にある資源というのは、ある意味でいうと、最も効率の良いところに吸収されて行くという懸念というのも当然あろうかと思います。 U.電子政府化の戦略 そういう中で電子政府化の戦略を考えて行かなくてはいけないのです。先ほどから資源アロケーションの配分を変えるとか、測定ルールを変えるといった様なことを整理させて頂いているのですが、電子政府の構造ということで都道府県や市町村といったような地方自治体の戦略を考える場合には、大きく2つの軸に整理することが出来ます。それは財務の面と、行政サービスの満足です。行政サービスの満足というのは、通常の言葉で顧客満足度と言われるものです。この2つのものをどうやって向上させて行くかということです。財務の面でいうと、特に大きな力として機能しているのは財務の効率化の問題で、これは歳出削減ということで動いて行っています。一方の行政サービス・顧客満足度というのは、出来るだけこれを上げて行きましょうということです。当然この2つの戦略というのは、これまでの行政改革の取り組み方で行くと、二律背反的な側面を極めて強く持っていたものだと思います。歳出を削減することによって、当然、従来型の顧客満足度というのは悪化して行くということが言えますし、顧客満足度を高めて行こうとすると財政の肥大化というのは避けられないという構造になります。それは今までの測定ルールというものを変えないという中でいうと当然そうなって行きます。今回の電子政府化というのは、今までの手法によっては両立し得ない2つの要因というものを、両立させる戦略を提供して行くという事が必要になって来ます。やはりそれが測定ルールを変えて行くという事の本質の部分にあるのです。それによって資源アロケーションを変えて行くという事だと思います。 2)財務と行政サービスの満足 財務と行政サービスの満足というものを両立させていく一つの重要な戦略として、電子政府化というものがあります。特に自治体ということを中心として考えてみると、ここに書いている通り、これはご専門の方は当然のことと考えられると思いますけども、電子自治体についての戦略としては、外部に対する戦略と内部に対する戦略があるということです。外部に対する戦略としては二つあって、「e-Businessといわれる中での地域振興、地域の経済の再活性化」といったようなところへの戦略の一つに位置付けられるのは当然のことだと思います。そしてもう一つは、eコマース(eCRM)というもので、いわゆる電子調達とか納税、あるいは住民ライフサポートといった様なところです。いわゆる手続き的なことに電子化を行っていくというところです。最近、外務省も、昨今表明したように、例えばパスポートを市町村でも発給出来るようにするとなると、パスポートを発給出来るための情報を市町村ベースでも共有出来るような形にしなければならないということが当然起こって来ます。IT化という面でも、その質というのが問われて来るということになるわけです。ただ次のステップとして極めて重要になって来るのは、内部に対する政策という、e-WorkplaceとかePMといわれる部分です。いわゆる行政の内部におけるIT化の部分です。それから更にその内部におけるIT化といっても単に事務のIT化ではなく、意思決定とか事業評価といったようなものに対するIT化などを進めて行くという事だと思います。ご承知のように文書管理のIT化とか、間接業務のIT化といった様なところも少しずつ進みつつあるわけですが、このe-Workplaceの問題として次に出てくるのは、「総務・財務関係における共同機関設置と電子化」の問題です。現在では市町村単位における電子化というのが基本的なパターンですが、おそらく近い将来には、総務とか財務関係については各市町村毎で持つ必要性がないという考え方が強く出て来ると思います。要するに「地域価値観を形成するために必要なものと、そうでないものについては切り分けていって、アウトソーシング的なやり方で共同機関を設けましょう」という考え方です。その共同機関のところでIT化というものを進めて行くという構造です。 V.PPP その資源アロケーションを変えて行くというのは一体どういう意味を持っているのかというと、2つの軸で割って考えてみます。縦軸の官民という軸と、横軸の公私という面です。公と官という2つの軸で囲まれた部分が行政機関。これは国と地方自治体です。官と私というところが、いわゆる特殊法人あるいは地方の外郭団体と言われるところです。私と民というのは民間企業、そして公と民というのはNPOです。その他に地域ネットワークとか、住民・国民というのもここに含まれて来ます。これまでの行政改革という取り組みの性格付けを、この考え方から行ってみたいと思います。 わが国では行政改革について今までに3つの時代というものを経ています。その中で70年代までの行革というのは、行政機関と特殊法人という、その領域における行革論というのが行われて来たわけです。これはどういうことかと言いますと、行政組織の内部の効率化を求めて行くことが行革論であるという考え方です。その考え方の背景というのは何があったかと言うと、70年代までの行革というのは、必ず増税措置に対する理由付けとしての行革論というのが展開されて来たわけです。したがって増税をするのであれば、その一方で行政機関の効率性は実現しなければならないという、そういうロジックの中で進められてきたわけです。ところが80年代になって、ご承知のように低成長に移行することによって、民間企業側では、増税というものに対応することが出来ないという時代を迎えます。「いくら行政機関の効率性を実現してもらっても、これ以上増税を飲み込んで行くことは出来ません」という議論になって来て、はじめて官民の役割分担論が出て来ます。官から民へという議論です。したがって「民間企業に役割を分担して行きましょう」という考え方の議論です。ところがこの議論というものから、更に進化をして来たのが90年代の後半のところで、「今まで行政や民間が担ってきた部分を、NPO・住民ネットワーク・住民にも担ってもらいましょう」という部分が出て来ています。これは後程ご報告する、PPPという考え方に更に進化をして来るという事です。 ところがこういった役割分担、あるいは資源アロケーションの配分の仕方を、単に行政機関の中だけではなくて、官と民、更には地域住民といったような公民のところにも広げていこうということになると、どうしても情報の共有とか、あるいは行政サービスの適切な透明性といった様なものが求められますし、行政サービスの提供の工法の共通化というものが求められて行くということが言えるわけです。したがって今回求められている電子政府化というのは、単に行政の中の作業を電子化するというだけの領域に留まらないということだと思います。昨日来、例えば国の方でも電子化による入札という様なことが行なわれ始めていますが、おそらくこれは次のステップでいうと、入札の評価方法を変えて行くという段階に入って来ると思います。 2)PPP導入の条件 これはイギリスにおける公共事業、PFIに対する、この7月に出た検証なのですが、「公共機関は、最小費用となる入札者を選ぶ必要はない」という結論になっているのです。要するに今までの一般競争入札は適切ではないという結論です。これはイギリスだけではなくてフランスなどでも共通して出されて来ている課題です。つまり社会インフラとか、その他の政策の質を良くするためには、単なる価格での競争関係だけを形成するだけでは適切ではないということです。ということは何が必要かと言うと、これは価格以外の非価格面での評価をして行くということです。そうすると、そこをめぐる評価軸なり、評価結果というものもIT化の中できちんと共有して行かなければならないのです。つまりアカウンタビリティー(Accountability)を適切に行っていかなければならないのです。したがって入札の方法、発注の方法も変えて行くという事だと思います。これは要するに総合評価方式とか、そういったものに進化をして行くという形です。 わが国の、こういった面での行政改革というのは、欧米に比べると大体15年位遅れています。認識としてそれくらい遅れているので、わが国が今やっている官から民へという行革議論というのは、イギリスやヨーロッパでは既に80年代後半位に行なわれている取り組みです。そして官から民への取り組みというものを経た中で、どういった問題点が出て来ているのかというのを検証しているのが、ここに書いてある文章だと言えるわけです。ですから現状では行政機関のスリム化等を行っていくことは必要なことなのですが、次の段階としては、どのような形で、官と民、あるいは住民セクター(ボランタリーセクターとか言いますが)と新しい関係を築いて行くか、その築いて行くことに対してIT化というものは、どう貢献出来るのかというところが非常に大きな課題になって来るのです。特に地方政府においては、そのことが強く求められて来る問題だと思います。 それはどういうことかと言うと、「公共サービスはいつでもどこでも公共セクターが提供すべき」というふうに書いていますが、これは80年代までのヨーロッパとか、つい最近までのわが国において通説的な概念であった官独占論です。このPPPという考え方は、「公共サービスはいつでもどこでも」までは同じですが、その後が違って、「公共セクターが提供すべき」ではなくて「公共セクターであっても、民間セクターであっても、ボランティアセクターであっても良い」という考え方を取るのです。つまりこの三者が並列的に存在する中で、公共サービスというものは提供されて行くべきであるという考え方です。ですから、どこが主体的にやっても構わないということです。公的セクターの補完として民間や、あるいはボランティアセクターというのが存在するという考え方を取らないわけです。それではこの共通軸を支えるインフラとして一番重要なものは何かと言いますと、電子政府化を中心とした情報共有というところが極めて大きな役割を果たして来ると言えます。 3)国立大学の独立行政法人化 これは私ども国立大学でも同じ事になって来るかと思います。余談になりますが、国立大学の法人化というのはまだ決まってはいませんが、これは避けて通れないのです。おそらく来年あたりに決まって来ると思います。そうした時に一番不足しているのは、まず大学内でのIT化です。説明するまでもないですが、各研究室ごとには当然パソコンとかは導入されております。しかし大学の財務・事務、こういったものにおける内部統制的なITシステムというのは全く皆無に等しい状況です。そこでこういったものにIT化をどうやって投入して行くかということです。これも余談になりますが、そういう内部統制的な事がどこまで出来てないかと言うと、今、99校の国立大学があるのですが、99校の中でも資産管理が殆ど出来ていないのです。典型的な例で言うと、99校の国立大学の不動産がどこにあって、どういう状況であるかというのは殆ど管理されていないのです。ですから本当に法人化し管理をするとすれば、今持っている不動産がどういう境界線を持っていて(つまり登記をきちんとして)、そして評価もきちんとしなければならないということです。このシステムだけでどれぐらいお金が掛かるかと言いますと、財務省で試算した結果によると、大体これだけで1,300億円掛かるそうです。そのくらいの投資試算額が出て来ます。昨日、郵政公社化の研究会がありましたが、既に新聞報道はされていますが、郵便事業(手紙・葉書・ゆうパックとかの事業ですが)を完全に民間企業に前面開放した時の市場規模は幾らかと言いますと、1兆8,000億円になります。その1兆8,000億円のうち民間参入されて来るであろうと想定される部分は約3割ですから、5千数百億円の市場規模が開放されて来るという形になります。ところがこれも新聞報道にもあるように、郵政事業側での失業者というのは大体6万人くらい出て来る可能性があります。これは民間側で吸収するという話になると思います。しかしそういう新しい領域が投入されて来ますと、IT化として極めて大きな投資というのがこういった分野でも必要になって来ます。余談が多くて恐縮ですが、手紙・葉書という部分のIT化というのは、これは物凄く大きな投資になるのです。ですからクロネコヤマトさんなんかでも、「事業開放されても、今すぐ参入できない」と言っています。問題はデリバリーシステムとしてのIT化をどうするかという事と、そこについての投資が行なわれるその投資機関がなければならないという事です。 いわゆる官民関係の見直しといったような問題は、もちろん今まで民が入れなかった領域が出て来るという事もありますけども、もう一つのビジネスチャンスというのは行政側が行って来た得意な文書管理とか、あるいは意思決定というものの測定ツールを変えて行く尺度を変えて行くということになります。その尺度を変えて行くための重要な手段として電子化というのがあるのです。それで、その前段として行政がどういうやり方をやって来たかということを、行政自らがきちんと説明し切れる構造が必要になるわけです。それがないと電子化というのは当然出来ないのです。それをやらなければいけないということになって来て、初めて先ほど言った工程分析というものを行うということになります。したがってこの工程分析が行なわれた中で、どのような文書管理や意思決定や事業評価、あるいは事業進行管理といったようなツールを作って行くのかという構造になって来ると思われます。こういったところまで進んで行きますと、おそらく次のステップとしての電子自治体化というのは、かなり大きなウエイトを占めて来るし、単に行政を政府が電子化するというだけではなくて、それと一体化した民間部門の新しいIT化が必要になって来るという事が言えるかと思います。当然それの一つの手法として、GISとかそういったものと政府形成の問題というのがあるというのはご承知の通りです。 4)初期投資の問題 今言ったような電子政府化を考えていく時に一番問題になるのは、やはり「初期投資の問題」です。これが極めて大きいのです。財政的に厳しい状況ですと、やはりこの初期投資というものを掛けて行くことが出来ない、あるいはリスクは取れないという事になります。そこで今回ご紹介頂くような、出来るだけ初期投資を低めに抑えたシステムというのがどうしても必要になりますし、ある意味で言うとPFIとか、こういったものとのリンケージというのが必要になって来ます。ただ日本の場合にはPFI部門においても電子化というものとリンケージしたものはまだまだ皆無です。提案されているものもほとんど無いに等しい状況です。ご承知のようにイギリスでいうと社会保険システムとか、あるいは裁判所の判例システムなど、そういったものも全部PFI化されて民間側のITシステムの中で管理・運営され、オペレーティングも含めて行なわれているというのが実態です。しかし日本の場合には何故それが進まないのかということですが、これは端的に言うと二点あって、一つは公務員制度です。どうしても行政サービスや情報管理というところには公務員という組織体が一体化して存在しているわけでして、こういった組織体の流動化を進めて行かないと、ソフト面での民間委譲というのが中々出来ないという問題点があります。それからもう一つは行政サービスの工程というものが非常に特異性を持っているということで、これを単にオペレーティングという形で民間に任せることが極めて難しいし、民間側にとってみてもその実態というものに合わせていくと極めて高コストであるということが言えます。今までの実証分析の中で、行政の中での分野で一番IT化が難しいのは何処と言うと公立病院(国立も含めてですが)で、これは極めて難しいのです。何故難しいかと言うと、行政側に問題があって、極めて特異で複雑な行政サービスの提供方法を取っているということです。本来、こういう所はかなりIT化を進めて行くことが出来るのですが、それが極めて難しいのは、行政側の複雑で特異なサービス提供の構造にあると思うのです。何処とは言いませんが、ある国立病院のIT化は3回失敗しています。発注をして3回とも失敗をしています。最近の事例で言うと民間側がもう降りてしまうという状況で、それは行政側が行政サービスの工程分析的なことを明確に行わないで発注をしているという問題から、責任を持った商品を形成出来ないという問題が起こるのです。いずれにしても、こういったことを克服して行かなければならないのですけれども、その前段にあるのも、やはり電子政府化をして行く中で工程分析等を行なって行くという事だと思います。 それでは電子政府というのは、次に来る形というのは一体何であるかということですが、先ほども言いましたように「公共サービスはいつでもどこでも公共セクターが提供すべき」という時代から、「公共サービスはいつでもどこでも提供するけれども、その提供主体は公共セクターでも民間セクターでもボランティアセクターでも良い」という考え方です。そのための共有の、要するに社会インフラというものを形成することが必要であります。 5)PPPのアプローチ その前提として公的資金によるユニバーサルサービスの重要性を確認していく必要性があるというのは、イギリスの方でも検証されています。そのユニバーサルサービスというのは何かと言うと、これがある意味でいうとIT化に伴う情報ネットワークという問題になって来ます。情報ネットワークは公的資金による形成というものが、第一段階として必要であるということです。もちろん公的資金による形成を行うわけですが、公共サービスの購入者と提供者を分離するという考え方です。これはどういう事かと言うと、今までのわが国の考え方というのは公共サービスの購入者と提供者は同じでなければならないという考え方だったのです。したがって行政機関は公共サービスというものを、購入者、つまり税金を持って住民の代わりに購入すると同時に、それを提供する主体であるという考え方を取って来たわけです。しかし今後は公共サービスについて、行政機関は住民に代わる購入者ではあるけれども提供者ではないという考え方にシフトして行かなければいけないという事になって来ると思います。それでは公共サービスの購入者である行政は何なのかと言いますと、提供者側のモニタリングをする能力さえあれば良いという事になります。現状ではこのモニタリング能力というのは極めて不足しているということが言えると思いますが、その能力を付けて行く必要性が出て来ると思います。 6)PPPの基礎 「民間等の透明性と説明責任の徹底」と書いていますが、これはどういうことかと言いますと、公共サービスの提供を担ってもらう民間セクターについては、その透明性と説明責任は徹底して頂くということです。当然、そのIT化を担って頂く部分、公共サービスを提供して頂いている部分に対しては、徹底して責任を負って頂くということです。そういうことによって民間側の責任とオペレーティングも含めた事業形成というのをして頂くということです。今、わが国では公的セクターの透明性というのは極めて強く要求されているわけですが、それは官が独占的に公共サービスを提供しているからで、当然これは公共サービスの提供主体が民間になれば、民間側にも透明性と説明責任というのが求められて来ることになるかと思います。 次に、「民間セクターの経営スキルの利用」ということですが、公的セクターにおいては民間セクターの経営スキルというものを十分に蓄積する必要性が出て来るのです。こういったものを全体として形成するためにも、やはりIT化というものがどうしても必要になって来ると言えるかと思います。 W.まとめ それでは整理をさせてもらいます。現状においては国も地方自治体も、eコマース(eCRM)というところでの電子政府化というところに主な比重があるという事になると思いますが、徐々にe-Workplaceとe PMの2つの方に集約し、ウエイトが高まって来ると言えます。ここに高まることによって、今までの公的セクターにおける資源というものを民間側と共有することが出来てきて、その結果、官から民へ、あるいは更には公民へというツールが拡大して行くのです。この拡大させて行くインフラの基礎を作るのが、やはり電子自治体、あるいはIT化というところだろうと思います。但し、今のところ財政危機という問題があるので、非常にローコストの仕組みを投入して行くか、あるいは次のステップとして共同機関といった中でのIT化を考えて行くことが必要です。更にその上に乗せる仕組みについては、(先ほど冒頭の話に戻りますが)IT化がグローバル化というものの流れの中にあるということは否定出来ないのですが、地方自治体における電子政府化によって生み出される戦略というのは、最終的にはローカルスタンダードという価値観を極めて強く持たないといけないという事だと思います。ですからそういう政策形成に視するIT化というのは一体何なのかという模索は今後も当然されて行くと思います。 これから国の方でも、かなりのスピードでIT化が取り組まれて行くという事なのですが、一つ懸念されるのは、IT化の予算は、国が予算編成している通りの投入になっていないという問題だと思います。要するに国側はIT化ということの費目によって予算形成して行きますけれども、実際に事業を行っている市町村等においては、そのIT化に向けた使用の仕方が中々出来ないという予算編成になっているという実態があるわけです。この辺のところは早急に変えて行かないと、IT化予算というのが投入された割には自治体のIT化が進まないという結論になって来ることが懸念されます。これはやはり国の予算編成等を含めて、早急の見直しという事が必要になって来ていると言えるかと思います。
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