96.12.25 「北大先端科学技術共同研究センターの挑戦」
-新たな産学共同機構の創出を目指して-
荒磯 恒久(北海道大学先端科学技術共同研究センター助教授)

北大の性格の変遷

 今年の冬に、この先端科学技術共同研究センターが北大にでき、専任の助教授を募集しているということで私が移りまして、今まで教育と研究を2本柱としていた大学の中で第3の社会と能動的な関係をどう構築をするかということをいろいろ考えて、周囲の非常に活発な応援も受けて、ある程度の形を得るようになりました。
 それでは、最初に私なりに北大の変遷と、社会の動きに伴って産学共同という言葉の意味、それからそれに関与する人間の感じ方も随分変わってきているのです。1876年(明治9年)に札幌農学校が北大の地に開設されました。開学の頃、理想が非常に高く、開拓史の理想がそのまま実現されていくのです。新しい日本を作る人材の育成ということで、優秀な人材が育ったのです。1907年東北帝国大学農科大学、1918年北海道帝国大学になり、この後工学部、理学部、医学部といった学部が付け加えられて理系総合大学となりました。それから終戦までこの体制が続きます。それから1947年に北海道大学が誕生しました。国民に開かれた大学そして国家権力に拘束されない自由な研究を目指すということが、スローガン的に伝えられ、それを一つの柱にして歩んできました。同時に文系が誕生して総合大学になりました。しかし、実質的には国家のための大学といいますか、日本全体の仕組みの枠内の目的から抜けきれるものではなかったと思います。その当時、1970年頃まで、日本の科学技術は、先進国から溝を開けられておりました。1960年頃から徐々に追いついてきてはいますけれど、まだまだ差がありました。それで、国や産業界は先進国に追いつけ、追い越せという事で、躍起になっていました。ところが大学の方は、独創的な自由な研究をしたいということで、目的にギャップがあったのではないかと私は感じています。ところが現在、日本の技術水準は先進国にかなりの分野で追いついております。今や先進国の中での対等な国際関係を維持していく上で、基礎研究での世界貢献が必要不可欠のものになっております。それで、最近産学共同というものに、新しい意義が生まれています。それはこの方法で国民に開かれた大学を実現する一つの側面になるという事です。

北海道の事情
 
 次に北海道の事情ですが、これは北海道経済連合会の戸田会長の講演から一部を簡潔に表わしてみると、北海道はもともと資源供給基地であり、その資源を本州にもっていってその見返りに金も物も本州から来る。これが基本航路です。基幹産業の農業は経営と技術は中央で、北海道は、農業従事者です。ですから頭は中央にあり、こちらは労働者であるというはっきりした定義があるのです。加えて最近は輸入品が大変安く入ってきますし、生産工場は海外に進出して行きます。そうすると20年前から工場誘致で切り抜けようという考えが北海道にはあったのですが、それもままならない。そして、中央の方では北海道はもういらない、マイナス3兆円の域際収支を出して、北海道はヤッカイドウであるという見方をされています。こうして3兆円の補助を国から受けているのですが、15年で打ち切るという話しの信憑性は高く、このままでは21世紀の北海道は大規模な過疎の島になってしまします。
 しかし、北海道は人口570万人、83,500平方kmあり、ヨーロッパでは優に一国を形成できます。それでは北海道に何が必要かという事ですが、先程の議論の裏返しで、頭の部分である企画・経営・研究といったところを自前でやらなければならない。それによって独自の産業技術を作り、独自の製品を既存の企業と相互作用して活性化し多様化する。産業クラスターというのは一つの産業技術・製品を核にして、その周囲のものが均一に連絡を取りながら葡萄の房のように繁栄していくというものです。
 この企画、経営、研究、独自の産業技術の構築といったところで、北大はある程度のポテンシャルを持っています。ですから今、こういった方向で北海道の技術を構築していく時には企業は大学を使うという立場で考えていけば良いのではないかと思います。敷居が高く入りにくいと言われていますが、積極的に入っていくことが大事だろうと思います。その為にセンター等で、いろいろな方策を考えています。

産学協力の目的とメリット

 一般に産学協力の目的とメリットを図示して見ました。これは今までの話しとは関係なく、文部省の見解です。メリットとしては大学側は社会との交流による研究の活性化、社会ニーズに答える新しいテーマの発見、そして最も重要なのが産業界からの財政援助を期待していると思います。産業界としてはリスクの大きい基礎研究の推進、大学の持つ知識・頭脳・研究設備の活用であると思います。実際にその後、産学融合していき、複数の研究者ト複数の企業というのが理想的かも知れませんが、プロジェクト研究を立ち上げて、その分野での発展を図るというのが、このセンターの目的です。そこから大学側としては、先端的・創造的研究を推進し、産業界としては新しい産業技術の核を見出す事が出来るだろうというのであります。北海道東北開発公庫が実施した、アンケートの集計結果を見ますと、産学官連携は重要であると答えた理工系の研究者の数は多いのですが、道内の取り組み状況は不活発であるという意見が多かったのです。
 こうした結果がでた大学の事情について触れてみます。まず、北大は講座制になっていて、教授1、教授1、助手2、4年生、大学院生が10〜20名います。これははっきり決められておりまして、増やせないのです。まれに技官が1人付く場合もありますが、増えません。その上経費削減で事務職員が猛烈に減らされています。それで、教授や助教授が申請書や事務的な書類書きできわめて多忙です。理系はどこにいっても非常に忙しいという事情があります。次に研究費ですが1講座年間400万円です。これで20人の研究員がいたとしますと1人20万円です。白衣を買って、コピーを取って本を買ったら終わりです。研究施設は老朽化して狭く、廊下に物が溢れていて事故が起きても申し開きがたたない状況です。また研究者の評価は論分数のみで産学協力して何かやったという事は評価されません。ですから総論は賛成だが自分のところでは、できないというのが現在の北大の実情です。

先端科学技術共同研究センターの目的
 
次に先端科学技術共同研究センターの目的についてお話します。約10年前に地域技術共同研究センターというのが全国的に、地方大学にどんどん発足してまいりました。北海道では室蘭工業大学に8年前にできました。3年前からは基幹大学にも設置するようになり、3年前に九州大学、去年は大阪大学、今年は北海道大学と東京大学で、東京大学はもう少しスケールを大きくして、国際産学共同研究センターという名前にしました。基幹大学では、地域技術というより日本全国あるいはインターナショナルな産学共同の新技術の開発を目指せという事になっています。北大は北海道にあるので、北海道の産業の発展を無視するわけにはいかないという事で、北海道で産業を発展させるためには全国的な視野での独創的な産業技術が必要であるという点で、一致をみて取り組んでいます。重点課題としては、バイオテクノロジーと環境とマテリアルと情報です。これを民間企業と北海道大学・国公立研究所・試験場といったところの産・学・官が一体となって編隊を組んで、現在科学技術のブレークスルーとなる先端科学技術の創世に向かうという事です。
1)先端的・創造的研究開発を目指し、企業と北大教官によるプロジェクト研究を組織する。
2)民間から客員教授を招き、大学と産業界の融合を図る。
3)社会に向け、先端科学情報を提供する。
4)企業経営者・技術者を対象に高度研修を行なう。
 北海道では、まず出会いの場を作ろうということで、21世紀産業基盤フォーラムが10月26日に旗揚げしました。そこで、情報の通りをよくする為に技術シーズアンケートを4000名に渡し、回答が返ってきたものを本に載せる予定です。また、北海道産業クラスター創造研究会では、VIRTUAL TECHNOPOLIS HOKKAIDOというインターネットというホームページを作り、仮想都市市民を中心とした情報受発信を促進するという事で始まっています。21世紀を担う人材の養成とともに地元北海道の産業発展に貢献していきたいと思います。



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