第25回 経営情報部会
テーマ:「急がれる金融改革と日本版ビックバンの行方」
―大競争時代への条件整備とは―
大芝  芳郎氏(日本銀行札幌支店長)

(1)ビックバンの背景

 まずビックバンの背景についてお話し、2番目にその内容、最後にビックバンによって金融機関の経営がどんな影響を受けるのか、それによって間接的に企業の皆様方に影響が出てくるかと思うのですが、どんなところを留意しておかなくてはいけないかというお話を申し上げたいと思います。かなり私見が入ると思いますが、その辺はお許し願いたいと思います。
 日本版ビックバンと言われていますが、具体的には金融制度調査会、証券取引審議会、保険審議会といった大蔵省関係の審議会がいろいろあったわけですが、先般6月13日に、それぞれの報告書が一斉に出されて、金融証券市場あるいは金融制度、金融システム全体の改革の方向性が打ち出され、同時にタイムスケジュールもはっきりした格好で打ち出されたという状況にあります。その後5ヶ月近く経っているわけですが、この間に「金融持株会社法案」や「預金保険法案の改正案」というものが国会に上程されておりますし、金融機関の経営という面で見ても、先月、関西系の第二地銀の4行が2行ずつ合併するとか営業譲渡するという話しがあったり、今週の始めには三洋証券の経営破綻問題が表面化するといった、大変めまぐるしい事態になっております。これはビックバンがその原因になっているわけではなく、これまでの負の遺産が問題になっているわけです。しかし私自身、昭和46年に日銀に入って既に26年以上経っているわけですが、今まで見聞きしたりやってきたことが必ずしも通用しない、その常識の延長線上で物事を考えている状況ではないということをつくづく実感しております。いずれにしましても、金融機関の不良債権の問題は大きいわけです。会計上の整理はそれなりに進展していると言いましても、依然として負の遺産を抱えているといった中でのビックバンですので、なかなか断行推進と言いましても難しい面はありますが、逆にそういった中でのビックバンを実行して行かなければならないという状況にあるのも事実であろうかと思います。
 日本のビックバンということが言われだしたのは、ちょうど昨年の11月11日だったと思いますが、橋本総理が3ページばかりのペーパーで「我が国金融姿勢の改革、2001年東京市場の再生に向けて」という指示を大蔵省等に対して、金融市場あるいは金融制度の改革の検討を指示したというのが始まりです。ビックバンというのは申し上げるまでもなく、宇宙が生まれた時の大爆発というような意味です。そしてビックバンという言葉が初めて使われたのは、イギリスで1986年の10月に大変規模の大きい証券市場の改革が行われ、このことが初めであります。そこから取ったものですから、日本版ということが頭に付くということであります。アメリカではビックバンということが言われたことはないのですが、規制緩和というか、1975年5月から株式売買の手数料が自由化されておりまして、これが5月であったことからメーデーと呼ばれています。イギリスでは1986年10月であったわけですが、複線がありまして1979年に「外為法の改正」から為替管理が完全に撤廃されております。イギリスで何が起こったかというと、1975年から1986年の間にイギリスからの資金がどんどん海外に流れて行っております。もっと具体的な動きとしては、イギリスの一流企業の株式上場が、ロンドンからニューヨークの証券取引市場へどんどんシフトして行きました。そういう時にサッチャーの一連の規制緩和の政策が取られていましたので、その一環として証券市場の改革ということも行われたという位置付けができようかと思います。具体的に何が行われたかということですが、イギリスでは1986年以前は、株式市場がかなり前近代的な仕組みになっており、手数料はもちろん規制されておりましたし、証券会社の制度もかなり硬直したものだったのですが、そういうのを大幅に改革致しまして、手数料は完全に自由化する、証券取引市場の会員資格を外国の証券会社にも解放するというように証券制度が抜本的に改められ、これがビックバンということになったわけです。そして86年以降は、もくろみ通り競争力を回復してきております。1990年の段階ではニューヨーク、東京に並ぶ市場に復元してきて、今や東京市場を遥かに上回る規模になってきております。特に、外国株式の売買高が極めて大きいというのが最近のロンドン市場の特徴です。こうしたイギリスの動きが、だんだんヨーロッパ諸国にも波及してきて、例えばフランスでは88年の段階でイギリスと同じような改革を行っております。ただフランスの場合は、日本と似て税制の問題がありますから、労働市場が硬直的であるとか、公的金融のウエイトが非常に高いという問題があり、イギリスのように上手くいかなかったということで、イギリスのビックバンに対して、プチバンと言われています。日本がビックバンを進めるに当っては、フランスの例を「他山の石」にしなければいけないと思います。まだ、はっきりした道筋が見えてきませんが、税制の問題ですとか公的金融の問題といったことを考えていかないと、フランスと同じようになる危険性が無いでもありません。この辺が留意事項であろうかと思います。いずれにしましても、イギリスのビックバンというのは証券市場の改革に至難があったわけですが、日本のビックバンというのは、フリー・フェア・グローバルといった3原則の下で、単に株式の手数料を自由化するというだけではなく、銀行・証券・保険の垣根を取り払う方向で相互参入を図る、あるいは為替管理を撤廃して外貨の売買を自由化する、更には法律や会計制度、税制、金融行政などの金融システムの基本的な部分についてもグローバル・スタンダード化を図る、国際標準化するといった極めて広範多岐にわたる改革を行っていこうという内容になっているわけです。そういった意味で、イギリスのビックバンよりも遥かにスケールの大きいことを考えているということですので、及ぶ範囲や深さも大きいことになろうかと思います。

(2)ビックバンの必要性

 では、なぜ今ビックバンが必要なのかということですが、私なりに大きく2つに分けますと、1つは日本の金融市場の地位が低下している、あるいは日本の金融機関の国際競争力が低下してきているということが大きな背景になっていようかと思います。2つ目は、企業あるいは個人の資金調達ニーズ、運用ニーズが非常に多様化してきている一方で、新しい金融技術や金融商品が急速に開発されてきているという状況にあります。その中で、より質の高いサービスの提供が求められてきている、逆に言えば、利用者本意の金融制度が求められてきているということが理由になろうかと思います。ここで、(図表1)の「国内マーケットおよび本邦金融機関の競争力低下を示唆するデータ」を御覧下さい。まず、「海外主要取引所における日本株売買実績」です。NY市場では極めて小さなウエートしかないのですが、ロンドンでは日本株売買実績の対本邦比が90年には全体の取引高の中で6.1%なのが、95年には18.7%と6年位の間に3倍になっています。そういう意味で、本来、日本で行われるべき取引が相当ロンドン市場にシフトしていることが伺えます。次に、「東証の外国企業上場数の推移」を見て頂くと、ここ数年は年々、上場廃止が増えて、上場社数は96年末には90年末から比べると半減してきています。3番目に「東京、NY、ロンドン証券取引所の上場外国企業数比較」ですが、NYでは95年末には90年末から比べると倍以上になってきているというようなことで、東証の地位の低下、あるいは逆にNY、ロンドン市場の地位の上昇、市場の魅力の差といったものが如実に表れているところであろうかと思います。それから「非居住者の円建て債発行状況」ですが、円建外債というのは日本で発行されているもの、ユーロ円債というのは円建て債ではありますが主にヨーロッパで発行されているものと御覧頂きたいと思います。81年末には9割位が日本で発行されていました。ところが最近は25%ということで、4割しか日本で発行されていません。逆にユーロ円債が、7割から年によって9割近く発行されているというようなことになっております。次に金融機関の競争力について幾つかの例を上げてみました。「国際シンジケート・ローン組成額に占める国籍別銀行シェア」では、邦銀が占める割合は、一時は1割強に上っていたのですが、今や5%を割り込むということになっておりますし、「アジア向け貸出残高の国籍別銀行シェア」でも趨勢的には年々、邦銀のシェアは低下してきています。このようなことで、日本の金融市場の地位の低下、あるいは金融機関のシェアダウンの数字がいろいろ表れてきています。これは、日本の金融機関がバブル崩壊の後、不良債権の処理に追われていて前向きの取組みができず、後ろ向きの対応を取らざるを得なかったということが大きいわけですが、それと同時に、日本の金融証券市場の魅力が他の国に比べて見劣りする、手数料が高いとか税金も割高であり、質の高いサービスも今一つであるというような問題もあろうかと思います。このようなことで、国際的な競争が激しくなる中で、日本の金融構造がこのままで良いのかということが強い危機感として出てきて、これがビックバンの引きがねになったということだろうと思います。
 この大企業や機関投資家あるいは外国政府の数字に加えて、第二の理由として、個人あるいは中堅中小企業といったリーテル分野でも、金融システムの改革を進めていかなくてはいけないという背景もあろうかと思います。日本の個人の金融資産は、1、200兆円あると言われておりますが、(図表2)に、その金融資産別のシェアを米国との対比で載せております。日本での預貯金の割合は徐々に下がってきてはいますが、依然として半分以上は預貯金であります。米国が、投信や株式等に分散されているのに対して、日本は預貯金のウエートが高い。確かに、信託や保険等の契約型の金融商品というのは、年々ウエートを高くしてきていますが、投信や株式という部分においては、米国に比べて格段にウエートが低いという状況にあります。(図表3)の株式の保有主体別に見た表でも、個人の持株比率は年々低下するといった格好になってきております。今後を展望してみた場合、高齢化が一段と進み、個人の金融資産の蓄積が更に進むということになると、多少リスクはあってもリターンの高い金融商品を買いたい、運用を行いたいというニーズが高まる可能性が大きいと思いますし、現にそういった動きもあります。その場合、使い勝手の悪い市場ということで変わっていかないということになってくると、個人の投資家を引き付けることができず、日本の中に繋ぎ止めておくことができなくて、そうした資金が海外に流れていってしまうということになりかねません。金融機関の側から見れば、個人の金融資産をできるだけ確保したいと思うのは当然ですし、そのためには銀行の窓口で投信や保険等の販売もできるようにしたい。証券会社でも証券総合口座のような格好で、公共料金の自動引き落としができるようにしたいという要望もあるわけです。このように、銀行でも証券会社でもワンストップ・ショッピングという、一ヶ所でいろんな金融サービスが受けられるという形にしたいし、お客さんも、そうしたいといったニーズがあるということが第二の理由だろうと思います。個人ばかりではなく、中堅中小企業でも資金調達ニーズの面からも、そのようなニーズが出てきております。企業としては、世界的な競争の中に放り込まれていますので、経営の一段の効率化を図らなければならないという、その一環として、資金運用あるいは資金調達の両面で最も有利な手段を求めるようになってきております。日本では、中堅中小企業の経営は、借り入れに依存する形になってしまうのですが、米国やイギリスでは、上場企業以外でも、その時々によって最もコストの安い資金調達ができる仕組みになってきております。日本でも、こうした高度な金融サービスを提供しなければいけないという状況になってきていると思います。
 このように、お客さんのニーズが多様化し、高度化してきているという状況に対して、銀行・証券サイドでも新しい金融商品を開発し始めているということで、今後更にこうした動きが加速していくと思います。まだまだ全体の中ではウエートが低いのですが、そうした新しい金融商品、金融技術という面ではデリバティブということが一般によく言われている話しであろうと思います。デリバティブにつきましては、ルール・オブ・サーティーファイブという言葉があります。35歳以下の人でないと、なかなか内容を理解できないという意味なんだろうと思いますが、確かにコンピューターを駆使して、通貨や金利、株価等を非常に複雑に組合わせて商品化するというものですので、一般の個人には表面的には馴染みがないのですが、商品として見ると非常に魅力的であるというものです。そうした商品開発の動きが東京を中心に急速に進みつつあるという実態があります。デリバティブと言った場合、一般的に投機的なものというイメージがありますし、現にそういう部分が強いのですが、反面、リスク分散やリスクヘッジにも使いたいという人のニーズがマッチするような市場がデリバティブ市場であります。それを利用しての金融商品を開発するのが店頭デリバティブと言われているものであります。デリバティブをする場合には、リスクがどこにあるかということを充分注意して頂く方が良いと思いますが、今後、そうしたデリバティブを使った商品が益々増えてくるのは間違いないと思います。この場合、「通貨(為替)を扱うのは銀行であり、株を扱うのは証券会社である。対象とする資産が通貨であるものは銀行しか扱えない。逆に、株を対象とするデリバティブは証券会社でしか扱えない」という規制をすると、非常に扱える範囲が限られてきます。それから先程申し上げましたように、通貨と株を組み合わせて商品開発するという動きがあるわけですので、どちらかしか扱えないということになると、商品開発にも制約が出てきます。従って、この垣根を取り払おうという動きになってきております。
 こうした新しい商品の開発は、目下のところ外国銀行あるいは外国証券会社が非常に積極的で、日本の証券会社の方に言わせると、「とても今のノウハウから言うと、品揃えや開発力の面で太刀打ちできない」と言う向きが多いのですが、それが現状なのだろうと思います。しかし、これから長期的に見て、新しい商品を開発する場合に日本の規制が厳しいということになり、日本の銀行・証券会社が外銀・外証に太刀打ちできないということがずっと続くということになれば、日本の資産が結果として外国へ流れて行ってしまうということになりかねないわけです。今、外銀・外証が非常に元気が良いというのは御存知の通りです。直接、顧客に対してメールやDMを使ってのセールスなども活発に行っていますし、東京などにおけるプレゼンツは非常に高くなってきています。こうした背景の中で、日本版ビックバンは必ず実行しなければならないと思いますし、逆にイギリス・米国では次の新しい改革の波が起こっていますので、今、打ち出されたことすらできないということになれば、益々格差を広げられてしまうという意見が無くはありません。

(3)ビックバンのポイント

では、具体的にどういうことがポイントになるかということですが、(図表4)に昨年、橋本総理が打ち出された新書の抜粋をごく簡単に書き出しております。

(1) Free(市場原理の働く自由な市場)

1.銀行、証券、保険分野への参入促進 2.長短分離等に基づく商品規制の撤廃、証券・銀行取引業務拡大 3.各種手数料の自由化 4.為銀主義の撤廃 5.資産運用業務規制の見直しとディスクロージャーの充実・撤廃 

(2) Fair(透明で信頼できる市場)

1. 自己責任原則の確立のために十分な情報提供とルールの明確化
2.ルール違反への処分の積極的発動

(3) Global(国際的で時代を先取りする市場)

1.法制度の整備、会計制度の国際標準化 2.グローバルな監督協力体制の確立

 これを具体的にしたのが(図表5)のフローチャートです。ここでポイントを少しご説明したいと思います。「為替管理の撤廃」というのは、5月16日に「外為法の改正」が国会を通り、為替管理が来年の4月から完全に無くなるということが決まっておりますが、この「為替管理の撤廃」がビックバンのフロント・ランナーと言われています。そして6月に打ち出された、金融制度調査会、証券取引審議会、保険審議会等の報告書をまとめたのが「金融業の自由化」と「証券市場の改革」です。これまでは、一つ一つの商品や業務内容を段階的、前進的に規制緩和するというやり方が一般的でしたが、今回は、業務規制や商品規制を一挙に大幅に緩和・自由化するという内容のものですし、手数料の自由化や取引所への集中義務等もフルセットで見直していこうという対応になっております。そして、金融機関の皆さんに問題意識を持ってもらうために、期限を明示するというのも今回の手法の一つです。法律の改正を要しないものは今からでもやるということですし、法律の改正を要するものも、来年度中にやれるものはやってしまおうということになっています。「金融業の自由化」のポイントとしては、
(1)専門金融機関制度に関する規制の撤廃。――これまで、外国為替専門銀行と長期信用銀行という2つの専門金融機関制度がありましたが、来年から為替管理が撤廃されれば、そもそも外為専門銀行というのは意味を成さなくなるわけで、当然廃止されます。長期信用銀行の方は、一般の銀行もこれまで融資の面では長期貸出しをしてきたわけで、融資業務においては、それほど大きな差があるという状況では無くなっていたわけです。差があるとすれば資金調達の方で、外為専門銀行にしても、長期信用銀行にしても、いずれも金融債というのを発行しています。一般の銀行は預金という形で資金調達していて、金融債は発行できません。この金融債を発行できるようにするかどうかというのがポイントであったわけですが、結論は、金融債という格好では認めない。そこまでは緩和しないけれども、普通社債は認めましょうということで、個人的には、少々中途半端な感じがしますが、そういうことで落ち着きました。次に、今回の金融の自由化の中の大きな柱は、
(2)銀行・証券・信託・保険等の垣根問題であります。――これは、10年以上前から議論されている問題で、現在でも部分的には相互乗り入れが行われているのは御存知だと思います。具体的には1993年4月に、銀行が子会社として証券会社あるいは信託会社を持つことが認められたということで、相互参入がそれなりに行われてきているということであります。ただ、今までのところ子会社が行える業務は相当限られておりましたが、今年3月に改正されて、子会社の業務範囲がかなり拡大されてきております。実施されたのは下期からですが、銀行の証券子会社で今できないのは、現物株の売買だけという格好になってきております。それから信託子会社でも年金信託以外の信託業務は基本的に全部できるようになっております。そういうことで、下期から相互乗り入れが大分進んできているということであります。ただ、証券子会社で現物の株式が扱えないというのは、まだ片肺的な状況ですし、信託会社にとってみれば年金信託というのは極めて大きなウエイトを占めるので、この辺の規制が残っているというのは、まだまだ改善の余地ありということですが、1999年の下期からは、証券・信託については完全に全ての業務ができるようにするという形になっております。それから今回の自由化の中で、個人にとっても銀行にとっても非常に影響が大きいのは、「投信の窓販」だろうと思います。現状では、投信は証券会社の窓口でしか買えないわけですが、これからは銀行の窓口でも買えるようになるということで、今年の12月から銀行の店舗に投信会社の社員が来て投信を販売します。そして来年度から、全ての店舗でやるかどうかわからないのですが、銀行の本体が投信を扱えるようになります。そうすると、お客さんの利便性が高まりますし、銀行にとってみれば商品の多様化が図れるということになります。結果として競争が促進されますので、投資信託はまだまだ日本でのウエイトが小さいのですが、潜在需要を掘り起こすことに繋がってくるという展開が考えられようかと思います。一方で、銀行が自分のところの預金と競合するという問題が出て来ます。それから銀行のお客さんで、特に小口のお客さんにとってみると、元本も利息も保証されると思って預けておられるでしょうから、銀行で投信を買って、元本が戻ってこないわけがないと思っている向きもないわけでもなく、その辺の意識も変えて頂かないといけない。ですから、金融機関にとってみれば、どのくらい積極的に投信を扱ったら良いのかというのが、経営上の判断の一つのポイントになってきているような感じですので、各行によって格差が出てくるような気がします。「保険の窓販」というのもあるのですが、これも今回の改革の中で認められることになっております。しかしスタート時期も2001年ですし、銀行が取り扱える保険商品というのも、住宅ローンを貸している個人に対する長期火災保険ということで、ごく限られた部分だけでスタート致しますので、長い目で見るとどうかわかりませんが、取りあえずのスタート段階では議論の中では大きな目玉だったのですが、結果としては小さな目玉に留まったというのが今のところの現状であります。
(3)金融持株会社制度の導入。――これは金融制度調査会の中では、非常に大激論が闘わされた点で大きな問題ですが、やや技術的な部分になりますので、後程触れてみたいと思います。
 「証券市場の改革」で代表的なものを上げると、(1)手数料の自由化等の供給コスト削減。――株式売買手数料の自由化が中心になるわけですが、これが非常に大きなところかと思います。現在でも10億円以上の大口取引については自由化されていますが、来年4月から5千万円以上の売買については自由化し、1999年中には全ての取引について自由化するという内容です。但し自由化すると、全ての取引手数料が下がるかというと、必ずしもそうでない面もあります。証券会社が自由に手数料を設定できるということにはなりますが、小口の個人の手数料がどの程度下がるかというのは、今の段階では必ずしもはっきりしておりません。ただ言えることは、大口の取引手数料については、かなり下がるだろうというのは間違いないという感じがしております。(2)有価証券取引税、配当課税の見直し。――これも極めて重要な改革の目玉です。遠からず打ち出されて来ると思いますが、現時点では具体的な内容が見えてきていないという状況にあります。(3)取引所集中義務の見直し。――現在の上場株式につきましては、全て証券取引所に繋がなければいけませんが、これからは、必ずしも証券取引所を経由しなくても、証券会社が自分で手持ちしている株式があれば、それを直接、企業や個人に販売することができるということです。そうすることによって、取引所に支払っている手数料を削減することができるようになります。そうすると、取引所から全て取引が逃げてしまうのではないかと思われるかも知れませんが、必ずしもそうはなりませんで、売買の効率化やリスクを証券会社が負担しなくて済む、金利負担もそれだけいらなくなるという取引所のメリットがそれなりにあるわけです。ですから、取引所の手数料削減の効果と、逆に自分が手持ちすることに伴う金利やリスク負担等との兼ね合いになってくるということになろうかと思います。これも来年の次の通常国会で法案が提出されることになっています。次に、表の中には入れなかったのですが、私共にとって非常に影響が大きいのは証券総合口座の解禁であろうかと思います。これはMMFのような口座で、公共料金の自動引き落としができるようになるというものです。今までMMFというと単に運用の手段ということだったのですが、銀行の預金口座と同じように、決済機能を持つということになろうかと思います。それと関連して、銀行が持っているCD・ATを証券会社に解放するという議論も進んでいるところであります。

(4)金融機関への影響

いずれにしましても自由化・規制緩和が図られると、1・金融機関の相互乗り入れが行われる、2・競争が促進される、3・手数料等の取引コストが低下する、4・取扱い商品が多様化するということが展望できるわけです。金融機関の利用者からみれば、運用者にとっても資金調達者にとってもメリットが出るということになります。逆に言うと、金融機関が低い預金で様々なサービスを提供するようになるということかと思います。ただ、金融機関にとってみれば業務が拡大することになるので、潜在需要のようなものが掘り起こされ、結果としてそれがビジネスチャンスになるわけですので、金融機関の国際競争力あるいは日本の金融市場の競争力の強化や、市場の活性化に繋がるという狙いになるかと思います。
 反面、競争が激化すると金融機関の整理淘汰が予想されます。個々の利用者にとってみれば預金している銀行が潰れてしまう、あるいは資金運用してもらっている証券会社が潰れてしまっては元も子も無いので、それをどうカバーしていくかというのが非常に重要なポイントになってこようかと思います。これまで基本的には、金融機関は潰れない、潰さないという行政を行ってきたわけですが、これからビックバンを迎える中で、そういう行政を行っていくことは中々難しくなっていくのではないかという感じがしております。逆に、これからの行政としては、市場原理に基づいて金融機関が整理再編されていくような時代というように位置づけて、それに沿って行政をしていかざるを得ないということで考えておくべきではないかという感じが致します。そうしますと、経営内容の悪い金融機関やサービスの悪い金融機関は、預金者も投資家も利用しなくなる、資金も提供しなくなるという形で自然と今のままでは生き残っていけないということになります。逆に、預金者や投資家が銀行や証券会社を選ぶ場合に、ディスクロージャーが充分できていない、経営内容がわからないということですと、選択の仕様もないので、これからはディスクロージャーの充実ということが、自己責任で運用していくという中では非常に重要になってくると思います。そしてディスクロージャーしていく中で、銀行や証券会社が整理再編されてくると思いますし、ディスクロージャーに耐えられない金融機関につきましては振るいにかけられてしまうことになりますので、金融機関が健全な経営を行っていくということへの大きなインセンティブにもなると思います。くどいようですが、今後は、預金者も金融機関も自己責任が非常に重要であるということであります。
 こういう状況になりますと、金融機関の監督当局あるいは行政の在り方も大きく変わってくるということになります。これまでの行政は、事前に業務内容を細かく規制し競争を制限することで信用秩序を維持するような面があったわけですけれど、ビックバンの中ではそういうことでは通用しなくなってきます。当局の方でも一定のルールを設けて時々、金融機関の健康診断をする、これを「事後的な監視」と言っていますが、そういうチェック機能を果たしていくということになろうかと思います。これには2つのやり方があり、検査や考査のように当局が直接金融機関に出向いてチェックする方法と、早期是正措置や自己査定という言葉を聞かれたことがあると思いますが、金融機関自身が自分の資産内容をチェックしてそれで引当てをして、その結果、自己資本が少なくなっている場合には行政が指導するという方法です。それからセーフティネットの整備ですが、代表的なものは預金保険制度です。これは原則的には1千万円以下の預金については、仮に銀行が潰れても保証するという制度ですが、実際には2、000年までは1千万円以上の預金についても全額保護するという方針が打ち出されておりますので、直ぐには心配いりませんが、2、001年以降はペイオフも有り得べしということですので、非常に長い定期預金をされる方においては、念頭に置かれたほうが良いという感じが致します。そして今、「預金保険法の改正案」が国会に出されております。これまでの預金保険制度は、経営のおかしくなった金融機関を別の健全な金融機関が吸収合併する場合に、預金保険の資金を使って、救済する金融機関に資金援助する、あるいは破綻した金融機関が持っている不良債券を買い上げるということが可能なのですが、問題になっておりますのは、経営のおかしくなった金融機関同士が合併して全く新しい銀行を創るといった場合には、預金保険の資金援助の対象にはなっておりません。それを対象にするというのが今回の法改正の趣旨であります。しかし、どこでも良いから資金援助するということはできませんので、大蔵大臣あるいは来年の4月からは金融監督庁の長官が斡旋した場合にだけ資金援助するということでありますし、経営のおかしくなった金融機関同士が合併する場合には、2、001年までの間だけが対象になります。証券分野では、投資家保護の仕組みが基本的に講じられてておりません。寄託証券保証基金というのがあって、倒産した場合に1社20億円を限度にしてということですが、基金の規模はわずか300数十億円ということで預金保険の2兆円に比べますと小さいもので、今回の三洋証券の問題を契機にして充実しなければいけないという方向になってきております。保険分野でも日産生命の問題があったのですが、支払い保証制度というのが基本的にありませんでした。これは、導入するとか契約者共基金というような一種の預金保険制度的なものを創るというような方向に動いてきております。
 それから、「透明な市場ルールの確立とルール違反への厳正な対処」ですが、特定のものに対する利益提供は当然やってはいけないことであります。そういったことを明確にして、ルール違反した場合にはペナルティを重くするということになると思います。この点も、今の国会に提出されておりまして、例えば損失補填した場合に、これまでは懲役1年以下罰金百万円以下ということになっていたのですが、懲役3年以下罰金3百万円以下というように引き上げられますし、法人としては従来の1億円以下から3億円以下に上限が引き上げられます。以上が大まかなビックバンの流れであります。


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