97.2.18 ホトニクスバレー構想と産業創造のプログラム
千歳市大学設立推進本部長 坂本捷男

産業空洞化の回避に向けて、経済構造改革を進めることが至上課題となり、企業活力の発揮を一層促すような経済構造への移行が求められている。国は、科学技術立国を旗印に、独創的、革新的技術の創世に資する科学技術の研究開発を強力に推進し始めた。
ホトニクスバレー構想(PVP)は、こうした時代背景の中で、先端産業の主役とされる光技術焦点を当て、国際的な情報発信拠点を構築しようとするものである。

○ 空港機能と連結した産業政策の展開
千歳市は、新千歳空港を核とした交通の要衝にあり、空港機能と連結した事業展開の優位性から、先端産業を中心とした臨空型企業の集積が着実に発展するとともに、新産業への構造転換の原動力として、新千歳空港と産業活動をより密接に結合させるべく、周辺地域において、北海道エアロポリス構造、オフィスアルカディア構想、千歳美々プロジェクトなど数多くの事業を展開している。

○ 旧来型産業立地戦略の限界
一方、昭和37年の新産業都市建設促進方の制定以来、全国3300の市町村は挙って企業誘致による活性化を政策の基本に据え、積極的な活動が展開されて来た。企業の立地により、雇用の場が確保され、定住人口が増加し、消費が拡大、自治体の税収が増加し、波及的に都市の成長を促すからである。地域を支えるには産業であり、産業の存在しないところには人も住まず、文化も福祉の向上もない道理である。
これ迄の企業誘致の特徴は、工業団地の造成による安価な土地の提供、助成金の交付、交通網等の立地条件のPR、労働力の確保などを武器とするものであった。
ところがバブルの崩壊後は、順調であった企業誘致に大きなブレーキがかかり、一部の都市では有力企業の工場閉鎖により数千人規模の余剰人員を発生させるなど、グローバリゼーションの波は深刻な社会問題となって、地方都市にも容赦なく押し寄せている。企業の海外移転が叫ばれる中で、旧来型の誘致戦略は限界に達し、より直接的な誘因が求められている。

○ 地域振興と学術研究の係わり
つまり、土地が安価であると言っても、中国やフィリピンとは比べようもなく、良質な労働力を訴えてみても、タイやベトナムの人件費は更に安く、逆に英語力では日本人の方が劣勢である。北海道の中の優位性とか日本の中の優位性ではなくて、世界地図の中で競争に打ち勝つものでなければならない。
世界を相手にして、この都市でなければ駄目だと言わしめる要件はなにか。どこの国ででも作れる製品であれば、高コストの日本で事業展開する必然性がないことは、衣料品の例から容易に理解できる。特定の地域、特定の人材しか手掛けられない世界最高水準の先端技術の存在が第一の適合条件である。
その都市への立地が技術移転、情報収集、事業展開、ビジネスチャンス拡大に絶対的に優位であるという可能性の創出として、最先端技術の集積こそが国際的吸引力を発揮することとなる。学術研究機能の集積はその為の必須条件なのである。

○ 大学立地誘導の目的
大学の立地を地域振興の目玉に掲げる自治体が多いが、大学にどの様な役割を担わせるかについての具体性に欠け、学生や教職員の増加による経済的波及効果、教育文化の向上、地場企業への技術指導などを抽象的に捉えているにとどまっているのが現状である。
大学のポテンシャルを引き出し、地域振興の核とするためには、抽象的理念ではなく、大学と産業の結びつきを明確にし、立地企業のビジネスチャンスを拡大へと導くシナリオ作りが重要である。
大学に新技術の社会還元という使命を担わせるには、大学における教育研究の方向が産業の興隆に寄与するのでなければ意味がない。
この様な背景から、千歳市は、産業集積と国際化に対応した人材の育成・産業技術の高度化と新産業技術の創出を支える高等教育機関の整備を目的として、大学の立地誘導に取り組み、慶応義塾大学の教授陣や(株)日立製作所などの支援を得て、先端技術を教育研究する千歳科学技術大学を設立することとしたものである。
対象とする先端技術は、21世紀の主役として注目される光技術を選択し、情報通信の基幹となる光ファイバー技術をキーテクノロジーに据えることとなった。

○ 光技術と光産業の動向
光技術は、あらゆる産業で適用されている最先端技術であり、わが国の光技術は世界的に高い評価を得ている。光産業は、通信、情報処理、計測、加工、エネルギー、医療などあらゆる分野を支える新しい基幹産業として、日本の産業全体の中に深く浸透しており、その役割はますます大きくなっている。また、資源に乏しいわが国が目指している知的集約型産業の典型でもあり、画期的な新製品を開発し、新たな需要を創出していくシーズオリエンテッド産業である。光産業の生産額は、2000年には16兆円に達するものと期待されている。
一方、マルチメディア時代を迎え、大容量の伝送路線が必要となっている。これを可能とさせたのが光ファイバーの実用化である。NTTは、2010年までに光ファイバーによるアクセス網をオフィスや家庭にまで広げるFTTH構想を発表しているが、その媒体として、プラスチック光ファイバー(POF)が有望となってきている。
従来の石英系グラスファイバーは、光の伝送距離や伝送帯域に優れているが、コア径が小さく屈曲性に弱点を有するなど取扱いに難点があることから、低コストで屈曲性に優れ、拘束信号の伝送が可能なPOFが加入者系の末端材料の主役として着目されている。

○ ホトニクスバレー構想―目的と意義
ホトニクスバレー構想は、スタンフォード大学を核とする米国シリコンバレーの日本型として策定したものであるが、世界に評価される光技術の頭脳拠点を形成し、21世紀を牽引する新産業の創出を目的としている。
本構造の特色は、新技術開発にかかる人材育成から基礎研究・応用研究へと連動させ、実証試験、インキュベート、事業化へと連続的に展開するシステムにあり、所要施設の整備の外、光情報ネットワークの構築や、実践のためのコーディネートソフトを一体として捉えていこうとするものである。そして、研究成果を社会に放出し、再び研究者や大学・研究機関へ還元させることによって新技術産業の創出意欲を高揚させることを基本とする。
PVPの狙いは、国際的な吸引力を有する産業政策の展開を標榜する道央テクノポリス構想や、東京を経由しないローカル・トウ・ローカルの国際化を目指す北海道エアロポリス構想の基本理念を実現の俎上に乗せるためのケース・スタディでもある。

○ 事業展開の指針
構想実現のための事業指針は次の3項目
 @ 光技術に関する産・学・官共同研究のメッカの創出
 A 世界をリードするベンチャー企業郡の育成
 B 世界へ情報発信する学術拠点の形成
これまで、高度技術工業の集積を目的に形成されて来たテクノパークには数多くの研究施設の立地が図られているが、相互連携による研究推進という共通の目標設定がなく、単体の施設が寄り集まったに止まってしまっている。PVPは、光技術という共通テーマの下に産学官が相互に協調し合って新分野の開拓に挑戦する、共同研究のための国際モデルである。

○ キーテクノロジーと先導プロジェクト
NTTのFTTH構想が打ち出され、高速大容量の情報伝送として、光通信の伝送媒体への期待が高まっている。PVPは、光通信の支柱である光ファイバー技術をキーテクノロジーとし、POFに代表される有機非線形光学材料分野の研究開発を先行的に展開する。
先導的プロジェクトとしては、
 @ 学術研究拠点である「千歳科学技術大学」の設立
 A 大学と連携し研究開発を展開するための「産学官共同研究システム」の構築
が両輪の機関車である。
大学を核とし、研究推進のシステムを明確にすることによって実効性が確保できる。ハードとソフトの組み合わせでPVPは推進されていくのである。

○ 千歳科学技術大学の設立
千歳科学技術大学は、平成10年4月の開校を目標に準備が進められ、現在、文部省に対し第一次認可申請中である。概要は次のとおり。
□特色
 @わが国唯一の光技術を専門とする大学
 A 物理学・電気・化学など従来の個別の学問領域を融合した教育
 B 世界的水準の最先端技術の研究
 C 実験実習を重視した教育
 D 産学官共同研究の実践的展開
□学部 融合理工学部
□学科 物質光科学科
    ○光に関する物質の特性と関連デバイスの教育研究
    電子光システム工学科
    ○光情報伝送システムと光応用技術の教育研究
□教授陣 光技術研究の第一人者で国際的に評価の高い佐々木敬介
 ○慶応大学教授を学長に迎え、大学を始め民間企業からも第一線の研究者を予定
□設立主体
千歳市と民間企業による公設民営方式。大学設立準備財団の理事・評議員・監事は千歳市長や慶応大学教授、上智大学教授の他、日立製作所、NTT、北海道空港、東急電鉄、日本IBM、富士通研究所、三菱電機、日本興業銀行など有力企業のメンバーで構成されている。
□キャンパス
新千歳空港に隣接。敷地は約28ha。キャンパスの中に千歳湖を抱く自然公園があり抜群のロケーションである。PVPのための研究ゾーン約20haも隣接している。

○ ホトニクスワールド・コンソーシアム
産学官共同研究の中核となる組織である。有機光電子デバイスを中心に光通信・光エレクトロニクスの材料・デバイス、製造プロセス・システムノ研究開発、事業化を産学官で実施し、新産業を立ち上げる事を目的としている。参加者は会員制で、運営会員、研究会員、一般会員から構成。国内外の企業、大学、自治体から募集する。
研究テーマは、第1期、第2期、第3期、第4期、第5期に分け段階的に実施する。第1期の研究プロジェクトは次のテーマを予定。
□材料分野
 側鎖型非線型光学ポリマーの光学活性基配向制御、ポリマー光アンプ材料の開発。
□デバイス分野
 延伸配向制御材料による二次高周波発生素子、GI型POF及び導波路型ポリマー光
アンプ、テラbit/sスイッチング素子。
□ 実装分野
 平面導波路型光プリント配線基板、POF用コネクタ。
□システム分野
POF利用ワイヤーハーネス・システム、光通信システム教育キット。
研究作業は、千歳科学技術大学の教員(予定者)をチームリーダーとし、高分子学会や回路実装学会などの第一人者たる研究者をアドバイザーに据えることにしている。一般会員には、定期シンポジウムや技術交流会の参加、研究プロセスの中間的報告、新規技術情報の提供などの他、研究成果の応用化からマーケットリサーチ、製品化、事業化までを専門に検討するコーデネイト委員会への参加プログラムが用意されている。
ホトニクスワールド・コンソーシアム(PWC)の普及のため佐々木教授を委員長とする実行委員会を昨年5月に発足させ、これまでに5回のフォーラムを開催したが、各回とも大盛況を呈し期待の大きさを感じさせる。PWCは、平成9年早々に設立を予定。通産省や郵政省が全面的な支援を打ち出している。

○ 施設整備と光ネットワーク
今後予定される施設は、千歳科学技術大学の他、大学院、ホトニクス研究所(P研)、メディアセンター、インキュベート施設、交流センター、エネルギーセンター等がある。
またP研をアクセスポイントとした国内外の大学・研究機関との光技術情報ネットワークを構想している。
PVPは、千歳科学技術大学のキャンパスが所在する千歳美々ワールド・プロジクトのエリアを中核拠点としているが、既に光関連企業から研究所と工場建設の申し出があり、官民の研究施設の立地が急速に進むものト思われる。ホトニクスバレーで育成された人材、研究成果によって、新産業が次々と生み出され、地域経済の活性化と関連企業への寄与を通して、再度、資金や人材が戻って来る、いわゆる「人知還流」がPVPの基本理念である。



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