
|
講師:北海道大学農学部応用生命科学科教授 飯塚敏彦氏
食糧自給率の低下 我々は、業務として入試センター試験の監督をやらされますが、その問題をめくって見てみますと、赤丸で「これが今の農業問題である」とありました。この問題の中で、まず食用農産物の需給率が大きく低下したことが一つの問題である。それから経営規模の拡大が不可欠だ。農産村地域の経済形態をいかに克服して行くか。それから後継者不足の問題があると。これを高校生に対する試験問題の中でぶつけて来た。大変先見の目がある出題者だったなと私は思うわけです。こんな問題を作って世の中を啓蒙して行けば、少しは今の農業政策を担当している人達、理解してくれるのではないかと思うのですが…。食糧安全保証論では、食糧の自給体制を強化する必要が指摘されたという問題も出されました。実はこれは誤ったものを書けという問題で、誤っているということが正解になるわけですが、アメリカやフランスでは農産物の自給率が日本と同じ水準にあるという。これはとんでもない話で、アメリカやフランスは100%を軽く超えているわけです。日本では42%とか40%を切ったとか言われていて、今、食糧自給率のパーセンテージをどこに設定するかということで、農業基本法上どうするかという問題を盛んに言い出した。しかし、こういう問題で今年の一月にきちんと指摘していたんですね。尚且つ、こういう表も出している。年齢が1970年に39歳以下が32.6%もあった。今や10%だ。それから65歳以上が当時は12%だったのが今や約40%だ。これが先ほどの後継者不足の問題にぶつかる。このようにきちんとデータを出して解答を迫っている。 もう一つ、皆さんのお手元にお配りしましたけれど、実際に今日本人が食べるお米の量というのは減っていて、食生活が大きく変わった。そして野菜や果物も輸入されている。この中で、今私たちはお米を年間何kg食べているのですかという問題が出てきている。1960年の時には120kg食べていたのですが、今は半分の65kgになった。その生活習慣の違いが食糧自給率というものを大きく低下させていた。そういう問題を昨年は読売新聞が一種のキャンペーンを張りまして、「日本の農業瀬戸際の模索」ということで、きちんとこの現実をぶつけて来ている。これは、ひと月に一度くらいいろんな問題をぶつけていました。牛乳や乳製品、肉類がアップしたことと同時に全体的な食生活の変化でお米の消費量がほとんど半分に落ちてしまった。これは大変な問題です。生産者にとってみれば米の消費は減るは輸入は行われるは、それでお米はあまり、尚且つお米の自給率は40数%…。どういうことだ。実際に日本のこの問題というのは大変根が深いわけです。今、輸入している全体の食糧に関わる金額は約576億ドルある。今日本にどれだけ外貨があるかというのは新聞になかなか書きません。マスコミも取り上げない。しかし2000億ドルあります。2000億ドルあるというのは大変な金額を日本が外貨として確保しているということです。日本の経済が悪い悪いと言いながらも外貨だけは物凄くストックしている。それで食糧にこれだけの金を費やしている。しかし2000億ドルの内の576億ドルですから、アメリカやフランスなどの輸出国にしてみればまだまだ足りない。もっともっと日本は食糧を入れなさいというプレッシャーが来る。そして工業製品で稼いでは、そういう食糧を入れる。お米もそうで、お米の問題は端的に日本の経済の問題を考えて行く上で大変な問題になった。一方では、いろいろキャンペーンがあるのですが、これも読売で今年の一月に「世界全体では食糧不安というのは、じわっと来ている。2050年になったら人口は100億人に近くなって来る。尚且つ農地は砂漠化して来る。そして農業人口はどんどん減って行く。日本では自給率が50%を割ってから10年以上経っている。こういうことで、世界の農業を考えていった時に日本はこれで良いのですか?」こういう問題がぶつけられている。こういう問題にどれだけきちんとマスコミにしてもオピニオンリーダーが対処しているか。 一方ではアメリカの相当有名な人ですが「世界は飢餓の時代に入った。日本ももっと生産努力しなさい」ということを強調しているのです。ここでは1994年は食糧自給率46%と言っています。42%と言う人もいます。一時新聞で24%になったという記事が出たこともあります。これはちょっとわかりません。今40%をどれだけ切ったかというのはなかなか出てこない。そして穀物の7割が輸入に頼っていて、しかも穀物の輸入量は世界の穀物貿易の15%ある。「日本は外貨2000億ドルあることに任せて、どんどんそんなことをしていては、発展途上国やアフリカなどの飢餓の国にプレッシャーをかけている。結局日本は価格を吊り上げている悪の張本人である」ということを、このレスター・ブラウンは言うのですが、それは今食糧自給率ということが問題になって来ているということをもう少し掘り下げて行かなければならない。では食糧自給率をどう考えていくのですかということが、今盛んに農業基本法で問題にしていることです。それで、この食糧自給率を設定しましょうと。センター試験で約一年前に問題が出てから日本の国の中でやっと食糧自給率というものを考えましょうという気運が出てきた。日本は何でもとかく対応が遅いですけれども。それを50%にしましょうかという案が出てきている。何%が良いかというのは生産者、消費者それぞれの立場で違います。しかし、1960年は79%あった。我々の学生時代はお米が足りなくて苦労した時代ですけれど、そういう約80%の自給率を持っていた時代から1970年代、80年くらいで50%になって、そして10年間50%を切ったと言っていますから、そうすると10年くらい前の生活習慣に戻しましょうかという一種の提案です。 10年前に我々の生活習慣を戻すとどうなるか。ちょうどバブルの絶頂期が1991年くらいで全てが下がってきていますから、10年前の1987〜8年に思いを馳せて、そのくらいまで我々の生活習慣を戻してみましょうかという数字です。そうすると我々の生活をどう変えて行けば良いのか、そういうことをある程度しっかりと考えて行かなければならない。自給率を上げたいというのは、一つ食糧安保の危機ということを上げております。これを上げるとどうなるのだろうか?生産者に本当に良いのだろうか?あるいは、今あまりにも偏って工業製品で外貨を稼いでいる経済的な基盤を、もう少し変えていく必要があるのだろうか。そういう基本的な問題にすべて掛かってくる。だから単に50%にしましょうかというのではなく、農業基本法でいろいろ議論して、今やっと自給率も話題になってきたのですから、日本の農業の基盤というものをしっかり考えていただきたい。国内外の理解が鍵なんて言っていますが、もちろん国外からの輸入しろというプレッシャーがある。それは外貨を2000億ドルも稼いでいる国は他には、そうない。台湾は今や1000億ドルくらいになっているのではないかということですが、後は皆外貨では大変苦しんでいる。こういうことで、ここでは目標達成に向けて米や麦等の主要農産物の品目別の生産努力目標と書いてあります。それから「担い手の育成と農業技術の向上」。これは大変大事なことです。先程の試験問題にもありましたように、農業の問題は結局、老齢化だと。生産者が皆年を取ってきて、実質的に後継者がいなくなって来ている。そして後継者が農業を継がないという状態になって来ている。これは何故そうなって来るのか。 後継者問題 私は暇を見つけて土日に二反部の家庭菜園をやっております。穂別まで泊りがけで行ってやるのですが、その直ぐ側に稲作専業農家の方がいます。その方と、この間も酒を飲みながら一晩話をしました。3世代で農家をしていて、2世代目の方が全て担ってやっております。こういう方がどんな農業をやっているのか。だいたい水田が7町歩で、反収が8俵から8.5俵、農協に出す金額は最近は1万2千円しか払ってもらえない。そして、バブルの絶頂の頃にいろいろな機械を買い込んでいる。農機具の対応年数が10年とすると、そろそろ時期が来ているのだけれど、同時に機械の償還時期も来ていてお金も払っている。それから、これだけの田んぼを整備・補助金ということでやってきて、これも償還の時期に来ている。そして、生活費を入れるとほとんど半分位は支出に回って、なお且つ新しく機械を買うことになると、また何年か計画で買わなければならない。今、新しい稲作の機械が高いものは700万円とか言います。一つの家でどれだけの機械が買えるかというのは、これでいうと或る程度の推定はつきます。一頃は、この農家の出荷価格というのは16000円の時代もあった。この出荷価格というのは地域によっても違いますけれど、16000円だと1000万円位の年収になる。 それが今やお米の値段はこれだけになってしまった。一方で、お米の値段というのは物凄い幅があります。コシヒカリの魚沼産だと、このところ6000円を軽く超えてしまった。北海道でホープと言われる「星の夢」「きらら」は3500円から3600円で売られている。格差が2倍あります。これが農家の現状です。このままでは専業農家は潰れるということで、今、稲作農家に対する補助金を北海道でも考えているようですけれども、何とかしなければならないという現実があります。それでは、どのような農業をやって行けば後継者が後を継ごうかという気持ちになっていくのだろうか。後継者問題は、この方も大変心配していて、自分が疲れた顔を子供にはなるべく見せないようにしていると言います。まだ小学生の子供を対象にこういうことをやっているのです。このような後継者問題を農家はいつも心配事として抱えてやっていかなくてはならない。こういう現実が北海道の典型的な稲作農家なのです。 養蚕業の後を追う稲作農業 私の講座はかつて蚕の研究もやっておりまして、日本の養蚕業の完全な没落の流れを我々は見てまいりました。今一番、収益を上げている養蚕農家というのは福島県の農家で、ついこの間7トンの繭を生産した。7トンの繭というのは大変な量なのですが、これを2世代の家族で収益を上げて天皇賞を貰いました。どれだけの収益があったかと言いますと、1991年に1キロの繭というのは約4000円くらいの価格をつけておりましたので当時なら2800万円になるのですが、今は1キロ1000円ですから700万円です。穂別の稲作農家と変わらない現状になって来ました。且つ、養蚕農家は今や国の価格安定という政策からも見放されまして、この3月31日で蚕糸三法という価格を安定する維持機構が撤廃されて来た。それで先物商品市場の価格に左右されまして、日経新聞で商品先物の商品市場を見ますと、1キロ900円代に入って来ています。しかし、一時は養蚕農業というのも収益性があって素晴らしい農業だったのですが、10年間で極端に下がって来た。これは勿論、中国からの生糸の輸入ということもあるわけですが、私はお米に置き換えてずっと考えているのです。このウルグアイラウンドで決着して日本が一定枠の輸入を義務付けられてやって来たお米の農業が、養蚕の農業と全くダブって私は考えられていまして、もし放っておけば日本の稲作農業は10年経ったら完全に潰れるなと見ております。但し、どんな政策を取るかによってどこまで持ちこたえて行くか。それで、専業稲作農家にどのような保障をするのか。12000円という農協出荷価格を考えても、どのように保障して行けば、10年間を20年間に延ばせるかということを、農業政策を考える人達は考えてもらわなければならない。12月8日に今の農政改革大綱という、農業基本法に対していろんな大綱を決定して行こうとしています。後継者問題があるところには、株式会社がある程度農地を取得して農業に参入できるようなことも考えて、生産の場に企業論理も入れて行こうと。ただ、これが将来の農業にとって切り札になるわけはない。農家が本当に収益性が上がる農業をどこまでどのようにやれるか。 一方で、私の親しい酪農大学の先生が「ビニールハウスを何棟か作って、そこでピーマンの生産をしている農家がある。そんなに広い土地ではなくて一町歩もないんだけれど、収益は3000万あると言っている」と言うのです。ピーマンだけでそこまで行っているのか、色の付いたピーマンまで手を出しているのか中身をきちんと聞いていませんが、それでも年収3000万ということになりますと、苦労して700万位の稲作をやっているのでは大変だ。そうかと言って専業でないことをやって行くと補助金はどうなるんだと。稲作専業農家に対する補助ということを考えれば、農家はなかなか他の作物に手を出せないのではないかというような問題も出て来ます。今、農業の変革の時期にあります。これは一重に米のウルグアイラウンドから発しました米の生産の問題。それから自給率の低下の問題。そういうことと、農家の後継者があまりにも減って行くという問題が、今の危機感というものを持たせているのだろうと思います。そういうことを考えて行きますと、私達は消費者の立場で「有機製品でなければ駄目だ、無農薬でなければ駄目だ」と言っていてそれで良いのかどうか。消費者は消費者の立場からわがままが出るのは当然としましても、こういう日本の現状をこうしなければいけないのではないかという目標をもう少しきちんと訴えて行くようなリーダーが必要ではないかと私は思います。 環境調和型農業 ただ農業政策というものでやって行こうというのではなくて、世論を喚起して行かなければならない。それから50%の食糧自給率というのは何のために50%にするのかきちんとしてもらいたいのです。同時に環境に優しい農業ということを言って、「日本は環境と調和した農業をやって行きましょう」と言って来ました。農家の人は肥料を使わず、あまり農薬も使わないで生産して行くというのは、美味しいお米や野菜を作って行くためにはそういうのもありますが、必ず生産量は落ちて行きます。お米もあまり肥料を入れないで味の良いものを作ろうとしたら、反収が8表から8.5表というのがありましたが、だいたい4表から5表になります。最近、合鴨農法というのも流行っていますが、これも収量は落ちています。それで価格がよほど高く売れれば良いのですが、そこまできちんと保障はされない。農家は悩むわけです。消費者の嗜好にどこまで合わせてやって行けば自分達はちゃんと食って行けるのか。そこで農協は指導もするのでしょうけれど、農家はなかなかそれに付いて行けない。一方では今日の道新にも出ていましたが、企業が何十億の資本を投下して千歳に大きなハウスを作ってトマトを作る。実際に糖度の高いトマトを作って売って行こうと。それはそれで良いのですけれど、農業の根本的な改革には繋がらない。このような問題がずっとあります。 我々は大学にいて、そういう農業のベースというものを考えながら学問も環境に調和型とすれば、どんな研究をやっていけば良いのだということも考えていかなければならない。もちろん私達はバイオならバイオというものをやる研究は、農業の現場を深刻に考えてやって来ているわけではございませんけれども、しかし世界の農業というのは、相当、今の日本の農業と隔離して来ている。格差があまりにも激しい。世界の農業というのは、ともかくコストを安く大量に生産している現場があります。今、日本の農業を引っ張り出して遡上に乗せましたけれども、アメリカへ行ったりフランスの農業を見て来ますと、自給率も100何十%という農業をやっているわけです。大量に生産して、それで充分自分の国の食糧を賄っている。もちろん、時期に必要な果物を輸入するということもやっています。アメリカで、りんごが端境期になるとチリ等から早いりんごも入って来ますし、ヨーロッパではイスラエルあるいは中東で大量に作った野菜がドイツやフランスにある時期入ってきます。しかし、やはり農業の生産性と輸入の問題は充分食糧の自給が行われている現実なのです。同時に、世界の農業というのは効率を求めて新しい技術をどんどん取り入れて来ている。新しい技術として典型的なのがバイオと通称言っている農業です。日経に昨年出た記事ですが「いろんな新しい技術が農業上に組み込まれてくる。世界の科学会社の大手は殆どこの分野に参入した」。 遺伝子組換え技術と生物的防除 日本ではもっぱらモンサントが悪者になりました。モンサントが作った除草剤耐性の大豆が日本では一番の悪者になっている。モンサントはラウンドアップの除草剤を掛けても耐性があって死なないという大豆を遺伝子組換えで作った。それが日本に入ってくると消費者に何らかの影響があるのではないかということで、今や「これを醤油に使っちゃいん。味噌にも使っちゃいかん」といろいろ消費者からの注文が出て来ます。しかし、世界の大手の科学会社というのは殆どこの分野に参入して、収益性を上げてきている。デュポンという世界最大の科学会社がアメリカのデラウエアにあります。あるいはダウケミカル、スイスのノバルティスというのはアメリカの相当な会社を買収しました。同時にノバルティスというのは前にチバガイギとかサントスという名前だったのが完全に合併したのですが、スイスには大きな3つの会社があったのを殆ど合併したということを考えれば大変な金額ですけれど、外国の大きな会社というのはバイオで特許を取りながらどんどん進出してきている。ここにも「農産物バイオ事業に集中するため企業分割を決めたアメリカのモンサント」と書いてあります。アメリカのモンサントというのは農業の分野よりは医薬の方で有名だったのですが、今や農業分野で有名になった。そして遺伝子組換えの大豆に「ラウンドアップ・レディ」という名前を付けて除草剤耐性の大豆を実際に作って来た。アメリカの農業というのは大豆にしてもどんな作物にしてもそうですが、広い土地に大量に生産するというシステムでやっている。そのためには、いろんな問題が発生します。害虫の問題、雑草の問題、土壌が荒廃する問題。そういうものを皆クリアーしながら生産している。大豆は特に雑草が大変な問題です。また雑草があればネズミが来て大豆を食べてしまいます。コガネムシ等にもよく食べられますが、そのためには農薬をかけなければならない。コガネムシというのは農薬に対して防除が難しいという問題があります。ブラジルも世界の大豆の主要産地ですが、ブラジルでは虫が死ぬウイルスを大量に増やして、害虫を飼ってそれにウイルスを植え付けてウイルス感染虫を作り、それをある所でばら撒いてやって、それで感染した虫をまた集めてばら撒いていく。 科学農薬を作ったり買うよりは、労力がかなり安いのでブラジルではそういう農業をやります。中国もやはり人件費が安いのでウイルスを虫で大量に作らせてばら撒くということをやっています。そういうことをやらないで、遺伝子組換えで除草剤耐性の大豆を作ってしまえば、物凄いコストダウンになります。それでモンサントはやりました。しかも安全性というのはアミノ酸レベルでほとんど変わらないから良いではないかということで、アメリカが承認しました。アメリカはバイオの分野では大統領が直接命令を出せるシステムになっていますから、農薬の登録のスピードをアップさせることができるのです。環境に優しいという名前が付きますと、農薬登録が早くできるシステムになっている。そんなことで、日本などと特許の戦争ではアメリカが断然有利になっていまして、アメリカの特許で皆抑えられている。またフランスのローヌツーラン・グループはアメリカのトウモロコシ用農薬事業でモンサントと提携した。ですから今、世界の科学大手というのはどんどん吸収合併して一つの大きな企業としてやって行こうとしています。ノバルティスというのは典型的です。そんなことで、世界の農業というのはもっぱらバイオ農業を組み込んで行くという現実に入って来ました。これをただ日本は消費者の立場から問題だと言っているうちに、世界に完全に取り残されるということが起こるのではないか。 遺伝子組換えという問題は始めはトマトで起こりました。病気に強くなるということもありますが、果熟を遅くしてトマトの日保ちを良くするというということでスタートしました。これは新しい遺伝子を入れるというよりは遺伝子を変化させて果熟を防いで行こうということなので、そんなに問題ないだろうということで一番始めに実用化して来た。しかし日本の消費者は遺伝子組換えは全てアレルギー反応を起こして、遺伝子組換えのトマトは食べないとかそれで作ったケチャップは絶対使わないということを言って来ます。日本だけはいろいろ問題が起こってくる。遺伝子組換えというものが何を目的にしてやるかというのはそれぞれ違います。病気に強くするというのは一種のワクチンを組み込んでいく。それはいろんなところがやっています。農水もやっているし三菱化成の植物工学研究所、サントリー、日本たばこ産業、三井東圧化学…。三井東圧化学は特にアレルギーをなくす研究をしています。 先日NHKでもやっていましたがコシヒカリ一族が大変アトピーを起している。しかし北海道のユキヒカリに変えるとアトピーが治った。ただ味が良くないので岩見沢の側の農家がほんの少し作っているだけだという紹介をしていました。いわゆるコシヒカリ一族というのは秋田小町も含めてアトピーの原因になる物質を作っている。それはまだ必ずしも原因が明解になっていない。研究者によると美味しいという中には甘さがあるわけですが、その甘さの中に原因があるのではないかとチラッと言っていました。甘さの中というのはアミノ酸が原因になっているのかも知れません。決定的な証拠がつかまっていないにしても、やはりコシヒカリ一族を食べるとアトピーが激しくなるというお子さんがいる。そういうお子さんを見ているお医者さんがユキヒカリに変える指導をしている。一度私はお医者さんの仲間でこの話をさせられたことがありまして、確かにそういうことを言っている人がいました。そういうことで低タンパクにしたりアレルギーをなくすというのは、お米でも大事な遺伝子組換えの方向だったりするわけです。 もともと育種というのは作物にしてもどんな物にしても社会のニーズによって決まります。かつて蚕などは、どれだけ長い糸を作らせるかということで明治から昭和にかけて1000mだったのが1300mと3割も長さが育種で上がってきた。ところが今の時代は長さよりも細さが大事になった。繊維というのは細いほうが風合いが良い。細いほうを如何に織物にしていくか。それで社会のニーズは長さよりも細さになり、そのための品種改良が行われたりする。そんなわけで社会が要請する目標というのは時代によって変わってくるということもあるわけですが、そんなことで遺伝子組換えが行われる。一頃、岩手で作ったお米が稲熱病に弱いという評判が出た。岩手のほうは慌てて稲熱病対策を練って、従来の育種の方法だと時間がかかるから一種の稲熱病に耐性のある酵素を遺伝子組換えで入れようということを考えてやっています。従来、育種の目標というのは稲熱病に強い酵素をある程度もっている品種ということを見つけて、それを根気良く掛け合せては作っていった。しかし今は、強いものをドンと引っ張り出して、そこから遺伝子を取り出して入れていく。育種のやり方が短くなって来ている。それがどれだけ食物の安全性との関わりで違うのだろうか。長い間かけて掛け合せたものと、短期間で遺伝子を入れたものとどう違うのか。単なるDNAの変換ではないか。育種で作ったものと遺伝子組換えで作ったものと同じことが起こっているのではないか。そういう問題もありまして、世界ではこういう農業上のいろんな目標のために必要な遺伝子を取り出したり、入れて発言させたりというところに研究が進んでいるわけです。 無脊椎動物病理学並びに生物的防除国際会議 我々の学会では世界で一番最初に遺伝子組換えのたばこを作りました。たばこの葉を虫が少しでも食べると穴が開きます。そうすると葉巻などを作る場合は大変問題だということで、たばこの葉の中に殺虫性のたんぱく質を組み込んでおいて害虫が食べると死ぬということをしました。この話はNHKで間もなく「世紀を超えて」という番組を作ります。「世紀を超えて」というのはどれだけ新しい20世紀の技術が有効に使われるか、その技術の紹介をやる。その一つに今の殺虫性たんぱく質の遺伝子を入れて、最初に遺伝子組換えたばこを作ったことを取り上げたい。ついては、その遺伝子組換えに使ったたんぱく質を作るバクテリアの写真が欲しいと言って来ました。いずれ放送されると私の所から行った顕微鏡写真が取り上げられると思います。そして21世紀につながる大変な技術だということで紹介されます。我々の国際学会は創られてから31年目に入って来ました。今の遺伝子組換えたばこは、1986年のオランダの国際学会で発表されたのですが、その学会を札幌に呼んで来れたわけです。8月24日の開会式には札幌市長も来て下さり、28日までびっしり行いました。その中で「生物的防除に関わる問題」をいくつも組みました。この問題が我々学会の中心であります。ウイルスを使ったり、バクテリアを使ったり、カビを使ったりした新しい技術の問題。農業生産の現場で、こういう遺伝子組換えの技術をどこにどのように使って行くかという問題が我々の国際学会の主要なテーマでした。大変準備に苦労致しましたが8月に無事この学会を終わらせることができました。 |