産学官協力懇談会
「北海道の第2次産業革命をどう起すか」
―地場の資源で比較不利を克服―
田村 修二氏(北海道大学先端科学技術共同研究センター客員教授)

1. 資源活かす技術を調達できれば産業は育つ

 1972年のオイルショックの時に、通産省で「サンシャイン計画」というのを立てました。その中で私が担当したのが「日本全体のエネルギーに関する協議をどのように強めていくか」という省エネルギーの関係から出てきたテーマでした。私は、「国だけでやっているのではなく、皆が知って皆の技術にしていかなければいけないのではないか」と言った結果、「それでは地域でどこまでエネルギーをマネージできるか見てきてくれ」ということで、それが仕事になりました。そこで、まず一番ポテンシャルの高い地域として探し出したのが北海道だったのです。来て驚いたのが、大学を中心としていろいろな実験がやられているということです。地域でもいろいろな努力をしているという印象を受けました。その頃、私は埼玉大学で時間講師をしていたのもきっかけになり、占冠の村長さんが来られて「山村開発のアドバイスをしてもらえないか」ということで、山村開発を手掛けるようになりました。そして地域の技術をどうやって活かしていくかという話しに繋がっていくわけです。民間企業のモチベーションは利益が中心で、利益が出る状態になれば何をやれば良いか簡単にわかってくるのですが、問題は利益になるかならないかわからないところから技術を作ってこなければ地域はなかなか発達してこないというのが現実です。そういう時に通常何がスタートになるかというと、「資源」を活かしていくというのがある意味で一番やりやすい方法になります。今も昔も「資源」を活かしていくというのは北海道にとって得意分野になっています。かつてのように天然資源の石炭や木材等は資源としての価値を失いつつありますが、土地はまだまだ自然のまま残されています。そこで土地利用の観点から農産品や乳業、林業という一次産業を中心に栄えてきたのですが、今は一次産業からどのような形で二次産業を育てられるのかという問題になっています。一番良い例としては占冠村の山菜工場です。しかし、一つの製品を作ろうとすると意外と苦労がありました。農業というのは、ある瞬間にピークを迎えて、その時に工業設備を造ると生産が落ちた時には全然持たなくなるということがあります。通常の工業的な手法からいうと、農産物は物凄く扱いにくい変動の多いジャンルなのです。そのため設備をピークに合わせないで、どのように工夫していくかというノウハウが農村産業を興していくために必要になります。ここでは、まず山菜の貯蔵、保存に適した包装、更に、山菜を加工する場合の合わせ味噌の種類や瓶詰めのデザインをどうするかという問題など、たった一つの素材に大変なノウハウがいることがわかりました。そういうことから北海道の地場の農産物は、まだまだこれから工夫をすれば製品化できる分野であるということが言えると思います。また、農村の方々はそのままの素材としては何百円かのものを加工したからと言って何千円で売るのは抵抗があるという素朴な考え方を持っていらっしゃいます。しかし、消費者にしてみれば大量の山菜をそのまま友人に贈るのではなく、美味しくて大変良くアレンジされた物を贈ってあげたいという気持ちが働きます。そういう消費者の気持ちで、マーケットでは何が価値があるのかということに生産者は意外と気が付かないのです。地域の発展は、そういう時に村のリーダーが「この山菜は素材が良い。だから何とか都会の人に食わせたいんだ」という夢を持っていること。そして、その夢を叶えてくれる人のアドバイスを、いろいろな所から取り入れて来るということにかかってきます。最近はバイオテクノロジーが発達したことから、資源としての活用の可能性が増えてきました。例えば、アミノアップという会社は健康に有効な機能性を持った食品を大量に生産して、そこから機能性食品を抽出してみようという開発を行っています。ここまで来ると、与えられた自然の中でできた物を加工していこうという考え方から、むしろ政策的にこういう物が欲しいからこういう物を作ろうという逆の発想になりました。こうしたバイオテクノロジーは10数年前から始まったのですが、その頃から比べると分析装置や抽出装置を持ち、しっかりした研究者が会社で働けるようになったといういう事が、この10数年で北海道が力強くなってきた理由の一つになっていると思います。そしてマーケットに関しては「タラコ」の話しが有名です。明太子の原料のタラコは北海道から九州に一番多く送られています。しかも一番良いものが送られているのです。かつて、「せっかく北海道に良いタラコがあるのだから北海道で明太子を作ったらどうか」ということで、商工会等を中心にいろんな実験をやってもらった時期がありました。ところが北海道で作った明太子は食べてみると、博多で作った明太子と全く違うものなのです。そこが歴史というかノウハウがあって、博多には熟成した旨みがあるが北海道の場合はまだまだ熟成の技術が発達していないということなのです。しかし、そう言いながら北海道でも明太子が生産できるようになっているのですから、これから研究して技術を磨いていけば日本一の物ができるだろうと思います。この辺が製造業の応用分野であり、今後大いに期待できるところです。

2. 同志の集まる場があれば産業は育つ

 次に、人的資源を中心にして産業がまだまだ起きるという点があります。正にソフトウエア等がそうですが、パソコンやインターネットのように自由に手に入る物で競争できて北海道に適っています。組織に依存しないで、人間の努力と知恵でやる分野は逆に差が小さいのです。そして、この分野は極めて教育が重要な分野であるということから、たまたまそういうことができる人を北海道に連れて来るということが一番簡単な地域興しになります。かつて、都会で大手のコンピューター会社に勤めていた人が組織を離れて、自分でやりたいということで北海道に戻って来る人が大変多かった時に、ソフトウエアの技術が北海道で生れるのではないかと期待された時期がありました。その頃は行政や銀行等の極めて大手のユーザーしかありませんでしたが、全く個人でやりたいといった人達がパソコンのソフト開発という分野を見つけて次第に力をつけていきました。そして、本州で溢れたソフトの仕事を北海道でやるということで、一言で言えば「人材派遣業」からスタートしていったわけです。今では本州の仕事は殆どしていないと言いながら、かつてよりも売り上げを伸ばしているという逞しさを付けております。その背景には日本全体がパソコンベースのコンピューター仕様が流行っているというメリットがある事と、パソコンのゲームソフトが開発された頃、本州ではそれを開発してくれるところがなくて任天堂が国内を探し回ったという逸話があるのですが、その時に北海道の会社は「手伝って上げましょう」ということでゲームソフトを手掛けたところがあるのです。ですから北海道はゲームソフトの生みの親的な役割を果たしているものですから、そういうところは今でもオリジナリティーの有るレベルを蓄えているということがあります。また、その頃のメリットとして、レベルの高いしっかりした研究者が北海道のパソコンソフト会社に入って来ています。そして、大企業と互角に競争しているというのが、この業界の面白いところです。しかし、これからは誰もが使えるようなやさしいソフトが出るようになりましたので、本当の意味で役に立つ機能的な面の開発能力がないと企業として成り立たない厳しい時代に入って来ました。今後、インターネットやGSIという衛星からの地理情報を使って応用していくような内容は先端技術が使われている分野ですが、そういうものを上手く開発しながら、農業分野の応用や輸送の合理化に使っていくというように既存の活動にリンクした使われ方ができると、ソフトは大変役に立つと思います。また、包装用や教科書作成用や図書の出版用に、ものすごく正確な写真やデザインを集めて、それをソフトにして販売するというようなことも行われています。

3. 技術の根っ子から新しい産業が育つ

 次に、技術から技術が生れてこなければいけないという話しですが、これが産業クラスターと言われている形で、どうやって新しい産業を起していくかのネタになります。例として、私はネームプレートの会社に携わったことがあるのですが、そこでどのように新しい技術を行うようになったのかというメカニズムを解明することによって、産業が育っていく課程をお話したいと思います。こうしたことを基にして、北海道がもっと効率良く新しい産業を起せるのではないかと思います。。このネームプレートの会社は、最初数人で道路標識等を作っていたのですが、緻密な技術を要するものではありませんでした。しかし工程は配線基盤を作るのと全く同じなのです。そこで従業員の方が、こちらの方が難しいけれども面白いということで手作りでやっていた工場でした。それを見学した時に、私は本州のネームプレート工場が凄い自動化されたラインで基盤を作っていたのを見ていたものですから、何世紀か戻った気がしたのです。これで地盤の供給をしているということで感激したのですが、同時に同情もあって「新しい設備を入れませんか」とお話したのが最初でした。しかし、その設備だけでも何億円もかかります。しかも一番小さい機械でも、その当時の工場の生産量の10年分くらいを一月で行うのです。その設備投資をやった時に、本当に北海道でそれを使うだけの市場があるのかというのが一番の問題です。いつでも北海道の製造業が直面するのがマーケットが小さいということなのです。そこで、地域の仲間が皆でその工場を育てようということで集まってもらったのが成功の基になっています。本州に発注していたものを全部道内で賄おうということで応援してくれたのです。それぞれの企業にとっては大変なリスクです。一つには本当にできるのか、できたとしても信用できる製品かどうか、そして本州だったら大量生産して安くできるのが北海道で少量生産したら高いだろう、高くて使いものにならなければ大変なリスクです。しかし皆さんが「高くても良いものであれば買う」というところまで協力してくれました。ただし、そのマーケットは全部集めても生産量の3分の1だったのです。そこでユーザーの方々が将来の分まで見越して注文を倍増してくれて、何とか3分の2までになりました。しかもその時に、北海道の経済界全体で新しい技術開発をやろうということで、地域の御三家である(今は御一家になったかもしれません)金融・行政・電力会社がそれぞれ、金融は資金、行政は開発援助、電力会社は大量購入といった役割をしてくれました。勿論、生産する側も大変な苦労がありました。基本的な問題として、今までの会社のスピードのレベルと機械を入れた時のスピード差が極めて大きいということから、人間がやっていた時は常識的な注意事項を守れば失敗しないし、仮に失敗しても先に行かなければ良かったのですが、機械はそうは行かないということです。自動ボタンを押せば、それまでの一月分の生産ができますから、一つ間違えば全部無駄になります。そういうところが簡単そうですが常に起こる問題なのです。ですから、その課程で大変苦労されたと伺っています。今は、問題なく製品が供給されているということで、大変大きな成果になっています。本来、こうしたことが自然に大きく広がっていくと良いわけですが、それがなかなかできないというのがこれからの問題です。これから苫小牧に自動車産業ができるというようなことですが、その大量生産技術にどこまで地場の企業が部品供給できるかというのが一つのチャレンジになると思っています。そういう面で、この数年見ているのですが意外と参入できていない様子です。  次に、私がここ暫く関与している話しに移りたいと思います。北海道で強い産業は紙パルプや食品、建材です。面白い産業としては農業機械があります。数は少ないのですが最終製品であるということで極めてユニークな産業です。食品加工関係も意外と最終製品で儲けているところが多くあります。お土産品やアイスクリーム等、北海道産というのが大変増えています。北海道の得意分野は、そういう最終製品型で機動性があるものです。今度のクラスターもそういう位置づけから考えていくべきだと思います。我々も2年程前から何かクラスターになるニーズ・シーズはないかと探し回ったのですが、探すだけで1年かかってしまいました。これから物にするのに後何年かかるか大変大きな課題になっております。お蔭様で北海道産業クラスター創造推進機構が今年の4月からスタートします。これは道、通産局、大学と、正に産学官がお互い協力していきましょうということでできたのです。では、私達がまだ1年もかかって何故動き出していないかと言うと、本当の意味でクラスターを作るメカニズムを解明していかないと、いくら支援組織ができても本当にやる人が出ないのではないか、というのが我々ワーキンググループの一番心配していることなのです。北海道の今までの産業発展形態を見ても、産業基盤が片や資源から出てきたり、片や人から出てきたりして、技術から出てきたものは自然に技術が技術を呼んで又出てきますから、これは頼りになるのですが、資源や人から出てきた方は、自分の枠を打ち破って違う分野に出て行くだけの力が生れて来ないのです。また、本州がマーケットになっているものですから、幾ら支援しても本州に貢いでしまっている形になっています。経済活動というのは自然に儲かる所には民間企業が出てきますが、自然に儲からない所には中々出て行けないのです。ですから「農業支援をしないと産業クラスターの役割がない」と言って出てきてくれるところがあるかどうか疑問です。

オゾン、オゾン発生器の概要

 現在、クラスター研究会では、起業化に向けて8ヶ月程かけて検討してきたものとして「オゾン発生器」があります。これを誰がどのようにして受けられるかということを中心に作業してきました。まず、なぜオゾン発生器がクラスターのテーマとして良いのかということですが、食品関連に従事している人口は北海道でかなりの割合を占めています。その中には加工業者も相当いますから、工業的なアプローチも理解してくれるであろうということが一つあります。もう一つは、HACCPと言われている食品衛生管理がきわめて厳しいのです。国内でもHACCPを満たさない企業は取引ができなくなる可能性があります。HACCPは経営者の管理能力を大切にするやり方と、それを裏付けする技術能力を大切にするやり方が丁度半々になっていて、正に国際基準のやり方で、また、素人がやっても達成できる透明性と常識を持っています。衛生管理を応用したという点で工業分野にも親しみやすいということがあります。次に、オゾン応用器は機能的な減菌殺菌・鮮度保持装置ですが、(ただし高濃度オゾンは人体に有害なので工夫が必要)今販売されているオゾン発生器は、1、000万〜1、500万円位します。私達は、たまたま中小企業が使える程の微弱なオゾン発生装置が特許になっているということを知りました。その特許で作ると7〜8Wの極めて省電力で、コストも10万円位の装置にいろいろ組み込んでも100万円位なのです。ですから中小企業向きという事と、衛生管理技術を合わせると売れるのではないかという事が選ばれた理由です。そして、先程も言いましたように、技術が定着して技術から技術が生れて来ることが必要なのですが、これは高圧なコイル技術からいろいろな用途が生れる可能性があります。例えば、低温乾燥装置、測定・検査・透析装置、新しい食品加工技術等です。このように、オゾン発生装置の開発・製造を通して「電磁気技術」というキーテクノロジーが定着していくのではないかと考えています。それから、私達の作業は「必要な企業と製品」をどのように作っていくかということが大変な仕事です。まず、パーツの電線・ステンレス網、電子部品、鉄心、ガラス管、ゴム、接着剤を一つ一つ道内で受けて作れる所があるかどうかを探しています。しかし、なかなか引受けてくれる所がないというのが現状です。そのため、公益法人も投資リスクの負担などを合意して、責任が取れるような体制でなければならないということから、「産業クラスター創造株式会社」を設立しました。そして、産業クラスターとして数多くの企業を創造する中で、事業計画が上手くいって会社が黒字になれば、誰か引受けてくれる人が現われると思いますし、その時にそれまでに掛かったものを正当に戻してもらって経営権を移転します(BOT方式)。そして技術移転、経営移転をすみやかに行うために、プロジェクトの開発段階からリーディング企業およびユーザーの参加を求めたらどうかという提案をまとめたところです。今のところ10数人は協力してくれる人がいて、1千万円の資本金は集まりました。これから、いかにして皆で知恵を絞り合いながら、死の谷を越えていくかというのが現在我々が置かれた立場であります。ということで、これからはBOT方式で直接投資家を探して、北海道で産業を作って実験をしていこうと思っています。


講演内容へもどる